梅雨に入り、天候の悪化と温度・湿度の上昇がストレスとなる時期です。オフィスワークでも不快を訴える人が増えますが、運転者の置かれた状況に配慮し、疲労軽減策を考えることが重要な時期です。
とくに長距離走行をする運転者や、深夜運行便、残業で運転業務を続ける人たちに管理側が配慮することは、安全運転確保の基本となります。
コロナ禍の業務縮小で滞っていた企業間の物流などに明るい兆しが見え始め、受注が極端に冷え込んだ貸切バスの運行なども再開されています。また、電子取引企業の自社配送などが活発化し、それだけ日本列島では運転業務が忙しくなっているということです。
しかし一方で構造的な人手不足、運転者不足は変わりませんので、一部の運転者の負担が増えていることがないか、過労気味ではないか再確認しましょう。
自動車運送事業いわゆる青ナンバーでは、運転者の働き改革が課題となっていますが、依然として長時間労働が続いていて、とくに長距離トラック運転者等の場合、休息は車内での就寝が中心となっている事業者が少なくありません。
立派な休息施設を整備し、入浴や快適な睡眠をとれる事業者はごく一部であり、多くの運転者はトラックステーションや大型サービスエリアでシャワーを浴びて、車内で泊まるケースがみられます。
こうした業務が続くと、蓄積した疲労が回復しないまま起床後すぐに運転に入るということが多くなります。
さらに、荷主都合で待機時間が長くなり早朝の荷降ろしができなくなって昼近くまでかかったあと、夕方には戻り荷の回収時間指定があると、法定の8時間以上の休息をとれないといった事態がしばしば発生します。
運転者は現場で工夫して何とか疲れが残らないように頑張っているでしょうが、人間は機械ではないので限界があります。
そこで管理者側が配慮して、着荷主都合で大幅に荷を降ろす時間が遅れたような場合は、夕刻の発荷主の時刻を遅らせるとか配車プランそのものを組み替えて、運転者に負担がかからないように差配する必要があるのです。
また、運転者の拘束時間短縮のために、積極的にフェリーを活用したり、高速道路走行を増やすなどの努力も必要です。
こうした配慮ができないと、いずれ運転者の疲労からくる見落とし → 覚醒度低下運転 → 居眠り運転へと陥る危険が発生します。
荷主都合の荷待ち時間については、荷卸しの事前予約制などをとって改善を目指している荷主企業がある一方で、すべてを運送事業者や運転者に押しつけて自社都合だけを優先する荷主が少なくないのも実態です。
「SDGsを追求しています」といったバッジをつけて「やってる感」ミエミエの大企業担当者が、綺麗ごとを標榜し構内のアイドリングストップ等を指示する一方で、立場の弱い運転者を数時間も平気で待機させる現場があると言われています。
運転者の意見に耳を傾けて、管理者側から「長時間労働の問題への対応もSDGsの重要なテーマです。SDGsを実現するため、運転者の働き方改革に協力してください」と主張し、先進的な荷主の事例などを紹介してその現場でも改善策をとるよう要望し続けることが重要です。
このほか、運転者のミスではなく荷主担当者のミスにより指定配送先に誤りがあっても、別の配送先への輸送に追加費用を支払わない荷主がいます。この場合の運転時間の超過は荷主責任ですので、公正取引委員会への提訴なども検討しましょう。
貸切バスや高速バスでは、交替運転者を配置して運行することも多く、管理者としては過労の心配はないと考えがちです。しかし、次の事例のように交替運転者がいるのに居眠運転に陥ったケースがあるので、過信は禁物です。
眠気が生じてしんどかったにもかかわらず、先輩運転者に遠慮して早めの交替を言い出せないまま、運転を続けて一瞬の居眠りから事故を起こしています。深刻な睡眠障害ではなく、少し交替を早めるだけで対処できた事例だと思われます。
運転者によって疲労の対処の仕方には個人差があります。今まで問題が発生しなかった運行ダイヤであっても、新たに選任した運転者などがいる場合は、細心の注意を払って見守るようにしましょう。
■トンネル内で居眠り、側壁に衝突
2017年2月26日13時53分頃、長野県佐久市の上信越自動車道八風山(はっぷうさん)トンネル内で、44歳の男性運転者が運転する大型貸切バス(乗客19 名乗車)が片側2車線の第1通行帯を走行中、トンネルに設けられた非常駐車帯出口部の側壁に衝突しました。
この事故で乗客1名と交替運転者の計2名が重傷を負い、乗客10 名が軽傷を負いました。
重傷を負った交替運転者はシートベルトを着用していませんでした。
運転者は現場手前の別のトンネルを通過前に眠気を感じ、さらに事故を起こした八風山トンネルに入るとき強い眠気を感じたにもかかわらず、そのまま運転を続けたため、居眠運転に陥って起こしたものです。
■交替運転者には申告せず
トンネルの手前にチェーン脱着所があり、休憩や運転交替ができることに気づいていましたが、交替予定のサービスエリアまで30キロ程度なので「頑張ればなんとかなる」と考え、交替運転者にも眠気を告げないで無理をして運転を続け、居眠衝突事故を起こしました。
■運行計画に問題はなし
事故を起こした運転者の過去1か月間の勤務状況は、拘束時間が1日平均9時間48分などの勤務で、改善基準告示に違反する内容はみつかりませんでした。
当日の乗務前点呼では異常がなく、前日の睡眠時間は7時間でした。休憩後の中間点呼でも異常なしです。
交替運転者を配置した運行スケジュールで、2時間程度で交替していて、休憩もとっています。
■運転を交替して約1時間後の事故
午前7時23分から午前9時まで運転して一度交替しその後は交替運転者が運転していました。
11時30分頃に昼食を取って休憩し、再度この運転者が交替して運転を始めた時刻は12時59分です。事故はその約1時間後に起こっています。
■初任運転者であるため、運転中の眠気を甘く考えていた
事故を起こした運転者は前年の春に選任された初任運転者で、大型貸切バスの運行経験はまだ7か月あまりでした。事故調査委員会はこの事故の要因と対策を以下のように分析しています。
運転者の疲労は、運転業務の疲れだけではなく、他の業務との兼ね合いで運転時に疲労の影響が強く出る現場が考えられます。
たとえば、高齢者福祉施設や介護施設の送迎車が事故を起こす事例をみていますと、外部委託した専従の運転者による事故が発生する一方で、施設の看護師や介護士が運転中に居眠事故を起こす事例が見られます。
運転業務が専門ではない人が人を乗せて運転する場合は、乗降の介助などに気を遣い運転に専念できないことが多かったり、本来の業務の疲れが運転中に出てくると考えられます。
看護師の疲労実態を分析した研究によると、30歳代、40歳代で慢性的蓄積的疲労を訴える値が非常に高いという傾向を示しています。
実際には、緊張する看護師としての勤務中に居眠りをすることなどできないそうです。一方、蓄積疲労を抱えた人が運転席に座ったとき、フッと眠くなる可能性は理解できます。
自分で訪問先のプランを立てて運行経路を設計する営業マンや、自社製品の流通を毎日担う配送マン、物流のプロドライバーなどは、業務として運転をとらえて体系的にこなし、休憩なども自分の裁量で判断できると思われます。
看護師や介護士が付随する業務として運転を指示されるのとは状況が違います。
看護師など日中にストレスの高い業務をしている専門職の人に対して、運転のような全く違うスキルが要求される危険業務を任せても大丈夫か、管理者側は真剣に再考する必要があります。
働き方改革の基本理念の一つとして、「勤務間インターバル」制度の考え方が導入され、企業の努力義務とされています。
これは、残業時間を減らそうということだけでなく、とりわけ休息時間規制をしっかりしようという動きです。例えば運転者が夜遅くまで時間外の長時間運転をした場合、翌日は、朝遅れて出勤するのは当たり前だという考え方の浸透です。
日本における過重労働を考える上で、EUの「労働時間指令」の内容が紹介され、こうした休息の重要性がやっと検討されるようになってきました。1993年に公布され2000年に改正されたEU労働時間指令では、勤務間インターバル規制がしかれ、原則として
・24時間につき最低連続11時間の休息時間
を与えなければいけない
としています。
逆にみれば、1日につき休憩時間を含めた拘束時間の上限は13時間ということになります。
例外規定は設けられていますが、すでに20年以上前にヨーロッパでは安全・健康に働く上での重要な考え方が共有されていたのです。
前日に夜11時ごろまで残業した従業員(運転者)がいれば、他の従業員と同じように朝8時に出勤するのではなく、翌日の出勤時間は10時以降に設定しましょう。
長時間の残業をしても、家でゆっくりして疲れをとって出社すれば、翌日の運転に影響を与えることは少なくなります。
※インターバル制度導入のリーフレットは厚生労働省のWEBサイトからダウンロードできます。
この記事は以下のサイトや掲載資料を参照しました。
・貸切バスの衝突事故/長野県佐久市(事業用自動車事故調査報告書)
・過重な運転労働をさせていませんか(危機管理意識を高めよう)
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