また、会社と運転者との常時連絡のためLINEなどのSNSを活用している事業所が少なくありません。これは、複数の運転者に同時に配信して相互連絡を取り合える利便性があり、個々の運転者に通話でやりとりするより効率がいいからです。
SNSへのグループ相互配信はそれだけ受信機会が増えます。このほか、管理者とドライバーが対話形式で運行状況を記録するSNSアプリがあります。
通行止め情報や異常気象に伴う大型車の迂回路の情報などをスマートフォンに自動配信するアプリもありますので、活用している運転者がいるようです。
こうした実情から、信号停止中に手元で確認している運転者の姿がよく見られます。「赤信号の間なら違反にならないだろう」と考えているのでしょうが、見続けたまま発進してしまうことがあります。
大手の運送会社・バス会社では、運転者に専用端末を渡したり車載無線機を活用して伝票の転送や事務連絡などを行っています。
この場合はスマートフォンを使用しなくても十分な連絡がつくのですが、中小の事業者や一般企業では、スマートフォンに頼っている会社が多いのではないでしょうか。
スマートフォンの活用がわき見運転などに結びつかないように、再度、実態に即したルール化を進める必要があります。
運転中の携帯電話の使用が、漫然運転や脇見運転に結びつきやすいことは以前から指摘されてきましたが、特にスマートフォンの場合は、テキスト入力やSNS利用、ゲームサイトの閲覧などから長時間の注視に結びつきやすく、重大事故を誘発しています。
このため、2019年(令和元年)12月の道路交通法の改正により、運転中にスマートフォンや携帯電話・カーナビゲーションシステムなどを使用する「ながら運転」に対する罰則が強化されました。
法改正の効果もあって携帯電話使用等の交通事故件数は、2019年中の累計2,645件に対して2020年は半分以下の1,283件まで減少し、死亡事故は42件から20件と大幅に減少しました。
しかし、2021年には1,394件と増加に転じ、死亡事故も21件と漸増傾向が見られます。
また、携帯電話使用等の事故では死亡事故率が一般の交通事故に比べて2倍近い高さで、悲惨な事故が発生しているのが現実です。
2020年8月12日午後10時10分頃、福岡県田川市で犬の散歩中だった42歳の会社員男性が、女子大学生(22歳)の運転する軽乗用車にはねられ死亡しました。
この大学生は「LINEの着信があり、スマートフォンの画面を見ていた」と話していて、画面を注視していて男性の姿に全く気づかないまま衝突しました。
■衝突まで全く気づかず被害者が溺死
男性は、はねられて側溝に落ち流されたとみられ、現場から約20メートル離れた側溝で倒れているところを発見されました。死因は溺死と見られます。
大学生にひき逃げの意思はなかったようですが、何に衝突したかわからないまま警察に連絡し、警察官の捜索で側溝に落ちた男性を発見したときには手遅れだったということです。
普通の衝突であれば、被害者にぶつかったとしてもその場で状況が把握できることで溺死には至らなかった可能性があり、スマートフォン注視事故の恐ろしさがわかります。
2022年4月28日に、埼玉県内に本社を置く草津温泉行きの高速バス運転者が、スマートフォンを複数回にわたって操作する“ながらスマホ”で運転する映像が乗客に撮影されました。
乗客が、降車後に運転者に対して「ながら運転」を指摘したところ、運転者は強い口調で否定、反論したということです。
乗客が情報提供して、実際にスマートフォンを見ていた事実が発覚しました。
バス事業者はドライブレコーダーの映像などを分析してスマートフォンの使用を確認し、ホームページで謝罪するとともに、この運転者を懲戒処分としています。
また、このバス事業者は「ながらスマホ」の再発防止策として、運転者に対して以下の4点を実施することを公表しています。
■乗務前に私用携帯電話を袋に入れる
路線バス事業所のなかには、私用の携帯電話を点呼時に専用の袋に入れて封印し、さらにカバンにしまう形で確認するルールを設けているところがあります。
車内への携帯電話持ち込みを厳禁しているからですが、連絡用の業務無線がありますので、問題はありません。
貸切バスや長距離トラックの場合は、私用の携帯電話は荷物に入れさせて、業務用のスマートフォンを貸与するケースがあります。
これは業務途中点呼時にスマートフォンでアルコール検知器使用の様子を撮影したり、渋滞や道路状況、荷物状態等を撮影して運行管理者と相談するときに必要な場合があるからです。
いずれにしても運転時の使用は厳禁としているはずですが、実際には、上記のように運転中に操作したり、信号停止中にニュースを見ている運転者の事例が発生しています。
●運転中にスマホ・ ゲームをしていて 死亡事故 |
名古屋市西区の高校教諭(44)は2022年5月31日、信号のない交差点で、 軽乗用車を運転中、スマホ向けゲームの「ドラゴンクエストウォーク」を していて、ブレーキを踏まずに自転車と衝突し、自転車に乗っていた会社 員の男性(55)が死亡しました。 「ドラゴンクエストウォーク」は、位置情報を利用したゲームアプリで、 実際に移動するとゲーム内のキャラクターが移動するため、夢中になっ て道路に飛び出す歩行者や自転車の事故原因ともなっています。 |
●スマホでニュース を見ながら発進し、 バスが追突 |
名古屋市バスの運転者(42)が2021年7月12日、運行中にスマートフォ ンを操作しながら発進し追突事故を起こしました。信号停止中にスマホで ニュースを見ていたもので、信号が青になった際、スマホを操作しながら 前方をよく確認せずにバスを発進させ、前の車に追突しました。 乗客らに負傷がなかったので当初市交通局は事故を公表しませんでした。 事故後の聞き取り調査で、運転者は、約1年前から信号停止中にスマホで ネットニュースを検索していたことがわかりました。 中部運輸局は後日市交通局に対し、バス1台を10日間使用停止とする行政 処分を行っています。 |
一般の事業者でも、以下のようなスマートフォン使用のルールを再確認して、運転時の注視事故などを起こさないよう努めましょう。
この記事は以下のサイトや掲載資料を参照しました。
・やめよう!運転中の「ながらスマホ」、違反すると一発免停も!(政府広報オンライン)
・やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用(警察庁webサイト)
・「ながら運転」の厳罰化を周知していますか?(危機管理意識を高めよう)
・スマートフォンの運転中利用事故は重罰(危機管理意識を高めよう)
・ながら運転の罰則強化(安全管理法律相談/清水伸賢弁護士)
・「ながらスマホ」の罰則大幅強化/12月1日施行(最近の法令改正)
最近、他の車をあおって危険を生み出したり、運転中にスマートフォンを操作して、重大事故を起こすなど、ドライバー失格と言える行為が目立つようになりました。
この冊子では、代表的な危険・迷惑運転を取り上げ、その罰則の重さと、運転上の注意ポイントを解説しています。
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