■重大事故が発生すると特別監査や家宅捜査が行われる ■日頃の管理実態と記録の不備が、事故で明らかになる
■自動車運送事業者に対する特別監査とは ■安全運転管理事業所も飲酒事故などでは厳しい捜査を受ける
さる8月22日午前10時15分ごろ、名古屋市高速道路で県営名古屋空港に向かっていた高速路線バスが、出口との分岐に衝突し横転・炎上して、2人が焼死、7人が軽傷を負う事故が発生しました。
この事故の報道で、22日当日に中部運輸局がバス運営会社の営業所に特別監査を行っていることがわかります。警察が家宅捜査に入ったのは翌日の23日朝です。
事故の処理を行い、それを踏まえて令状を請求するのですから、警察の捜査が翌朝になるのは当然でしょうが、運輸局の監査は即日で入っています。
それだけ事故を重要視しているということですが、運行関係の書類改ざんなどを防ぐ意味があると考えられます。重大事故が発生した場合は、管理の実態を厳しく調べる必要があるからです。
緊急の監査や捜査で、バス運転者の当日のアルコール検知や勤務時間、点呼時の状況等にとりあえず目立った問題がなかったことなどが明らかになりました。
なお、国土交通省がこの事故を特別重要調査対象事故と判断し、事故調査委員会が調査を開始しましたので、今後、特別監査や調査を繰り返すことになると思われます。
この事故に限らず、最近、重大事故に対する国土交通省や運輸局の対応が迅速になっています。知床漁船事故では、国への批判が高まりました。国民感情などを意識していることも背景の一つとして考えられます。
また、警察当局も重大事故の場合、ドライバー個人だけでなく企業の管理責任を厳しく問う姿勢を示しています。自家用自動車を運行している事業所が例外とは言えません。
名古屋高速の事故では、バス会社が翌日に記者会見を行い、運転者の勤務実態や健康診断結果、当日の点呼結果、運行中に運転者と定点連絡を取り合った際の様子などで、表面上は目立った問題がみられなかったと報告していました。
軽井沢のバス転落事故や知床観光船事故のケースと比べると、重要な情報がすぐに開示されています。
多くの路線をもつバス会社ですので、少なくとも日頃の運転者管理や運行管理が機能し、記録が保存されていることがわかります。
実は、事故を起こしたバスが所属する営業所は2022年3月に営業を開始し、7月25日に新設営業所としての初めての監査を受けたところでした。中部運輸局は「特に違反はなかった」としていますが、新設時の監査に対応したことで報告事項も整理されていたことが伺えます。
運輸事業者としては当り前のことですが、事故が起こったとき情報を提供して捜査当局と協力できるかどうかが、車を運行する事業者の責任として問われています。
今後、当該バス会社の運転者管理や運行管理上で、どのような問題点が明らかになるかはわかりませんが、最初の段階で点呼の記録がみつからなかったり、健康診断の結果がわからないなどの不備があると、それだけで行政処分の対象となり社会的にも信用を失うことになったと思われます。
トラックやバス・タクシーなどの自動車運送事業者に対する監査は、国土交通省自動車局長の通達に基づいて行われています。
●こんなときに特別監査が
社会的影響の大きい事故や事故にかかわる違反が重大な場合は、即座に特別監査が行われます。重点を絞って調査する一般監査と違い、全般的な法令遵守状況を調べます。
2019年9月5日に大型トラックが踏切で京浜急行と衝突した事故や、2016年1月15日に発生した軽井沢スキーバス転落事故、2013年2月17日に大分県で発生した観光バスの転落事故、2012年4月29日に群馬県の関越自動車で起こったツアーバス居眠り事故などは特別監査が実施されています。
●無通告で事業所に立ち入る
原則として、特別監査は「臨店監査」として、無通告でバス会社・運送会社等の本社や営業所に監査員が立ち入って行われ、法令違反などがないか徹底的に調査されます。
●過去の実態も徹底調査
事故当日に関連した運行の記録だけでなく、保存されたドライブレコーダーの映像、過去の運行記録、賃金台帳、乗務員台帳、タイムカード、過去の点呼記録、運行指示書、運転者への指導・監督の記録、安全服務規定、運行管理規定、過去の事故記録、事故再発防止策の記録、社会保険加入状況、健康診断結果とそれに基づく措置の記録、健康管理マニュアルによる指導の記録、点検整備記録簿、運送引受書類などが調査されます。また、休憩または仮眠のための施設の有無、36協定等の労働協約書類なども徹底的に調べられますので運行管理の実態は隠しようがありません。
状況によっては、労働基準監督署の職員が同行して調査します。
●継続して監査の対象に
なお、重大な事故を引き起こした運送事業者の法令違反状況が悪質な場合は、事業停止や事業許可取消し等の重大な処分が科せられます。さらに、運輸局は継続して優先的な監査対象とします。とくに貸切バスに対しては、重大事故を起こした事業者は原則として年度毎に1回以上の監査が実施されるようになります。
自家用自動車を運行している事業所は運輸局の監査を受けませんが、重大事故発生時に警察の捜査が入るのは同じです。
2021年6月28日、千葉県八街市で発生した白ナンバートラックによる飲酒運転事故を覚えている管理者の方も多いと思います。
この事故では、安全運転管理者が未選任であったことなどが発覚し、事態の重大性を踏まえて、2021年8月4日に内閣府は閣僚会議で「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」を決定しています。
このとき、安全運転管理者選任事業所への対策について、以下のように青ナンバー同様の強化方針を決定しました。
決定を踏まえて、道路交通法施行規則の一部が改正され、安全運転管理者の行う業務として酒気帯び有無の確認明記と記録の保持、アルコール検知器を用いた酒気帯び確認等が追加されることになりました(道路交通法施行規則、第9条の10の改正/2021年11月10日公布)。
前記の対策と関連して、2022年4月27日、道路交通法の一部が改正されて公布され、安全運転管理者等選任義務違反(副管理者未選任も同様)、安全運転管理者の解任命令違反の罰則が、現行の「5万円以下の罰金」から「50万円以下の罰金」へと強化されることになりました(施行は令和4年10月1日*)。
また、安全運転管理者が業務を行うための必要な権限の付与や機材が整備されていないため安全運転が確保されていないと認められる場合は、自動車の使用者に対して、是正のための必要な措置命令を出すという規定が新設されました。
この是正措置命令に対して違反した場合についても、50万円以下の罰金が科せられることになります(※新たに「安全運転を確保するために必要な機材の整備」が道交法に規定されましたので、使用者がアルコール検知器などを整備していない状況が発覚し、さらに是正命令に違反した場合は罰則が適用されることになります)。
安全運転管理者を選任していても名ばかりで実際に管理業務が実行できていない企業に対して、厳しい指導と取締りをするという意図が示されています。
(*道路交通法施行規則の公布により、施行日が決まりましたので、2022.9.14に一部更新しました)
事業所の運転者が飲酒運転事故や居眠運転事故など、社会的に大きな影響を与える事故を起こした場合は、警察官が本社・営業所などを家宅捜索して、安全運転管理者の日頃の業務について、資料提出を求めます。
このとき、運転日誌、酒気帯び確認の記録、運行計画書類、安全運転指導を実施した資料などがないことが判明すれば、当然、「安全運転管理者が必要な業務を行っておらず、安全運転が確保されていない」と判断されます。
そのため、公安委員会から安全運転管理者の解任命令を受けたり、是正のための必要な措置をとるように命令を受ける可能性があるということです。
「白ナンバーは運転日誌などをつけていなくても、罰則や処分はない」と軽く考えていると、運転者の運転実態を把握できないため事故を起こすリスクが高まります。当然、自動車の使用者としての責任を果たしていないと判断されることから警察の厳しい指導を受け、社会的にも大きな批判を受ける可能性があります。
企業には安全運転を確保する責任があり、「義務があっても、罰則がないなら実行しなくていい」と考えることは、企業にとって重大なコンプライアンス違反であることを認識しましょう。
この記事は以下のサイトや掲載資料を参照しました。
・自動車総合安全情報/行政処分の基準(国土交通省webサイト)
・愛知県名古屋市で発生した高速乗合バスの横転・火災事故について (国土交通省webサイト)
・事業用自動車事故調査委員会(国土交通省webサイト)
・貸切バス事業者が監査を受ける場合(運行管理者のための知識)
・「安管選任義務違反」等の罰則を強化──道路交通法改正(最近の法令改正)
・安全運転管理者にアルコールチェックを義務づけ──施行規則改正(最近の法令改正)
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