高速道路では最低速度が時速50キロと定められていますが、景色のいい橋の上などで最低速度以下で走行している車を見ることがあります。万が一、最低速度違反の車に追突した場合、追突した車の過失責任はどのようになりますか?
道路交通法23条は、「自動車は、道路標識等によりその最低速度が指定されている道路(第75条の4に規定する高速自動車国道の本線車道を除く。)においては、法令の規定により速度を減ずる場合及び危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その最低速度に達しない速度で進行してはならない。」として、一般道路における最低速度について規定しています。
一般道路で最低速度の規制があるのは、道路標識等によって指定されている道路についてだけであり、その他の一般道路にはありません。
一方、いわゆる高速道路における最低速度については、同法75条の4で、「自動車は、法令の規定によりその速度を減ずる場合及び危険を防止するためやむを得ない場合を除き、高速自動車国道の本線車道(政令で定めるものを除く。)においては、道路標識等により自動車の最低速度が指定されている区間にあってはその最低速度に、その他の区間にあっては政令で定める最低速度に達しない速度で進行してはならない。」とされています。
同条の「政令で定めるもの」として除かれているのは、「往復の方向にする通行が行われている本線車道で、本線車線が道路の構造上往復の方向別に分離されていない」(道路交通法施行令27条の2)道路とされており、対面通行で道路が分離されていないような道路では最低速度規制の対象にならないことになります。
それ以外の高速道路は、最低速度が指定されている場合はその速度に従い、道路標識等で指定がされていない場合には、時速50kmとされています(道路交通法施行令第27条の3)。
警察庁交通局長による令和3年11月30日付『「交通規制基準」の改正について(通達)』では、最低速度の規制の目的は、「自動車の低速走行を規制することによって、交通の安全と円滑を図ること」とされており、対象道路は原則として時速80km以上の最高速度規制が行われている高速自動車国道以外の道路で特に必要と認められる区間とされています。
また、同規制を行うべき場合の留意事項の一つとして、高速自動車国道と接続する自動車専用道路において最低速度の連続性を担保する必要がある区間、及び橋梁部、観光地、名勝史跡等を通過する自動車の低速走行により、一般交通に著しく支障を及ぼす区間に限定することが挙げられています。
行政罰については、一般道路においても、高速道路においても、最低速度違反の違反点数は1点で、反則金の対象となります。
また高速道路における最低速度違反には、刑事罰も設けられています。まず単純に高速道路で最低速度違反をした者は5万円以下の罰金とされています(道路交通法120条1項12号)。
また、他の車両等の通行を妨害する目的で行為を行い、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法で最低速度違反をした場合には、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(同法117条の2の2第12号リ)。
さらに、同じく他の車両等の通行を妨害する目的で行為を行い、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法で最低速度違反をした場合で、実際に高速道路等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた場合には、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が定められています(同法117条の2第6号)。
なお、一般道路における最低速度違反自体には刑事罰は規定されていません。ただ、道路交通法70条は、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキ、その他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」として、車両の運転者に安全運転義務を課しており、同義務違反には罰則も規定されています。
そのため、いわゆる逆あおり運転のように、著しく低速度で走行した場合、その運転態様によっては安全運転義務に違反したものとされる可能性があります。
最低速度違反の車に追突した場合の過失責任については、具体的なケースによります。
最低速度違反を犯していたとしても、走行自体はしているような場合、基本的には走行中に前方の車に追突した場合であり、追突した車の前方不注意や車間距離違反が原因といえますが、前方の車が突然急ブレーキをかけたり、駐停車したりした場合などには、前方の車に著しい過失、あるいは重過失があったとして、過失割合に影響する場合があります。
とくに高速道路では、最低速度違反も過失の一内容となることがあり、また前方の車が急ブレーキや駐停車をしていた場合には、過失が認められやすいといえます(もっとも、最低速度違反というより急ブレーキ(法24条違反)や駐停車(法75条の8違反)自体を過失と捉える場合もあります。)。
前方の車に、最低速度違反等があり、著しい過失、ないし重過失として認められる場合には、10%から20%程度過失割合が高くなると考えられます。
また、事故の態様によっては、前方の車の最低速度違反の態様や、居眠り等の他の原因が関係するなどすることがあり、その場合には過前方の車の過失割合がさらに高くなる場合もあります。
なお、近年報道等がされることの多いいわゆる逆あおり運転などで、後方の車が追突を避けられないようなタイミングで、前方の車があえて急ブレーキをかけたような場合には、そもそも後方の車の過失を認めて良いかどうかは慎重に判断されるべきといえます。
裁判例には、最低速度違反を過失の一内容と捉えて過失割合において考慮したものもあります。
東京地裁平成30年4月24日判決では、法定最低速度時速50kmの道路における追突事故について、後続車の前方注視義務違反を指摘しつつ、前方の車が片側3車線の第2車線を、法定最低速度を下回る時速40kmで走行していた点の過失を認め、後方の車の過失割合を80%、前方の車の過失割合を20%としました。
他方、福岡地裁平成20年6月5日判決では、加速や減速を繰り返していた前方の車に「居眠り運転と最低速度違反という極めて悪質な過失がある」とし、「照明設備のない暗い夜間に最低速度違反の低速度で走行していることは通常の高速道路の走行では想定されていないものであって、極めて危険な運転といわざるを得ない。」と厳しく評価して、後方の車の過失割合を30%、前方の車の過失割合を70%としています。
同裁判例は、最低速度違反だけではなく、夜間に居眠りや加速や減速を繰り返していたことを厳しく評価したものですが、事故の具体的態様によっては最低速度違反を犯した方の過失割合が高くなる場合があります。
執筆 清水伸賢弁護士
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