先日、弊社の従業員が普通乗用車を運転中、左折の際に道路外側線(歩道が設けられている道路で車道の外側に引かれているライン)を走行してきた二輪車を巻き込む事故を起こしました。十分な後方確認を行わなかった運転者に過失があるのは当然ですが、二輪車も本来の通行帯の外と思われる道路外側線を走行していたことも過失があると思いますが、いかがでしょうか?
道路の外側(車両の進行方向の左側)に引かれる白線には、主に、いわゆる車道外側線という区画線と、路側帯を示す道路標示があります。
車道外側線とは、歩道が設けられている道路の車道上の車両進路方向に対して左側に引かれた区画線であり、車両が通行する際に、道路の端に寄りすぎると危険であるために引かれているものです。車道外側線の場合、同線の外から歩道までの間も、車道として扱われます。
他方、路側帯は、道路交通法第2条3の4において、「歩行者の通行の用に供し、又は車道の効用を保つため、歩道の設けられていない道路又は道路の歩道の設けられていない側の路端寄りに設けられた帯状の道路の部分で、道路標示によって区画されたものをいう。」とされるもので、同条項に該当する歩道が設けられていない道路における外側の線は、路側帯を表示する道路標示となります。この場合、路側帯、すなわち線の外側は、車道ではなく歩道となり、歩行者や、場合により軽車両だけが通行できるということになります。
上記両者の区別は、大まかには道路に歩道がある場合、引かれている線は車道外側線として区分は車道となり、道路に歩道がない場合には路側帯として歩道になると理解しておいて良いと思います(ただし、歩道がない道路でも、路側帯の幅の設置基準を下回るスペースしかない場合は、路側帯ではなく車道となるとされているため、判断が難しい場合もあります)。
自動車が交差点において左折する際には、巻き込みを防止するため左側に寄る必要がありますが、道路左側の白線が路側帯であれば、その線を越えて寄せてはいけません。一方、車道外側線であれば、その線を跨いで、歩道との境界まで幅寄せして良く、道路状況にもよりますが、巻き込みを防止するために寄るべきということになります。
このように、車道外側線の外と歩道との間は、車道として扱われますので、道路交通法上、二輪車が通行することは問題ないということになります。
他方、路側帯の場合には、自動車から見て外側は歩道ということになりますので、バイクは通行してはならないことになります。
そのため、原則としては、車道外側線の場合には二輪車には通行すること自体に過失はなく、路側帯の場合には過失が認められることになります。
そもそも、自動車が左折する時は、十分に左に幅寄せを行い、巻き込みに注意しなければならないことから、自動車の過失割合が高くなります。
二輪車の側にも、道路状況によって左折による巻き込みの危険を予測する必要がありますので、交差点で左折時に二輪車を巻き込んだ場合の車と二輪車の過失割合は、80対20が基本とされています。
この割合は、二輪車が車道外側線上を走行していたとしても、自動車も車道外側線の外まで左寄せを行うことができる以上、基本的には大きく変わらないと考えられます。
本件の質問の場合、歩道が設けられているということであり、車道外側線と考えられるため、通行のみを取り上げて過失であるということは難しい面があります。ただし、裁判例などからすれば、具体的な道路の形状や状況、交通状況等によっては、車道外側線の通行について、過失割合を大きくする理由になることもありえます。
車道外側線に関係する裁判例の中には、道路交通法上は車道と解されるべき車道外側線を、路側帯と同様に解して判断したと考えられる事例もみられます。
しかし、裁判例の多くは、車道外側線を車道と捉え、通行自体は禁止されていないという前提の上で、車道外側線の通行という事実のみではなく、他の状況もふまえて過失の一内容と捉えて過失割合において考慮していると考えられます。
これらの場合の具体的な過失割合は、過失無しとされるものから、5割以上の過失を認めたものなど種々あり、事案によって異なるため、具体的な基準があるわけではなく、やはり事案ごとに存在する種々の事情を考慮した上で判断されているといえそうです。
はっきりとした基準があるとまではいえませんが、例えば道路交通法の規定からすれば車道ではあるが、通行するには狭かったり、水路敷等に蓋がされているような形状であったり、傾斜が強かったりして、必ずしも自動車や二輪車が通行することが予想しにくい事情があるような場合には、そこを通行してきた二輪車の過失割合が大きくなる傾向にあります。
他方、路側帯を通行して巻き込み事故に遭った場合には、通行してはならないところを通行しているということになるため、二輪車の過失割合は高くなるといえるでしょう。
いずれにしても、交差点等で左折する場合には、十分に左側に寄せて、しっかりと後方確認をした上で巻き込み事故を起こさないように注意しましょう。
執筆 清水伸賢弁護士
No.1078 安全管理のトラブルから事業所を守る(A4・16p)
本誌は、事業所の安全管理業務を行うに当たり、様々な法律上のトラブルから身を守るために知っておきたい法律知識を清水伸賢弁護士がわかりやすく解説する小冊子「安全管理の法律問題」の続編です。
経営者や管理者が正しく法律知識を身につけ、対策することで、事業所全体の安全意識の向上へとつながり、交通事故を始めとした様々な法律上のトラブルが発生するリスクも低減することが可能となります。
(2021.12月発刊)
No.1053 安全管理の法律問題(A4・16p)
本冊子は、事故・トラブルとして6つのテーマを取り上げ、使用者責任や運行供用者責任といった事業所にかかる責任の解説をはじめとして、経営者や管理者として知っておかなければならない法律知識を清水伸賢弁護士がわかりやすく解説しています。
法律知識を正しく理解することで、事業所の問題点を把握することができ、交通事故のリスクを低減することができます。
(2017.12月発刊)