■人手不足のため経験の浅い運転者が増加しています ■新入運転者特有の事故を警戒しよう
■3H事故分析をしておこう ■初めての経路で、バスが横転し乗客1名が死亡
コロナ禍があけ、旅行支援などが実施されたこともあり、各地で人出が戻ってきました。このため、飲食店や小売店などの活気が復活し、観光バスや貸切バスの姿も増えているようです。
しかし、一方でコロナ禍の影響で解雇した職員の復帰が思わしくなく、人手不足の業界が少なくありません。総務省の労働力調査などによると、コロナ禍前の2019年には78万人いた旅客運輸業の労働人口は大きく減少し、2022年8月段階では76万までにしか回復していません。
運転者の人材難は構造的なものであり、急に始まったわけではありませんが、他の業界が人手不足に陥っているため、その余波でさらに優秀な人材が取り合いとなる恐れがあります。
経験豊かな即戦力運転者を採用するのが難しいときは、原点にたち返って新人を育てる以外になく、新入運転者・初任運転者の教育が課題となってきます。
今こそ、運転経験の浅い人を優秀な運転者として育てていく態勢を整えましょう。
■経路選択が重要となる新入運転者
人手不足の事業所では、採用すればすぐに新入社員を現場に配属せざるを得ないと思いますが、新入運転者特有の事故が発生しないように、管理者の配慮が必要です。
基本的な運転態度や安全運転知識について教育することはもちろんですが、日常管理では、まず第一に経験の浅い運転者を運転業務に送り出すとき、経路の選択が重要になってきます。
運行計画上で経路を変えられない場合は仕方がありませんが、道路選択が可能な場合はよく検討させましょう。
たとえば、雨の降る日には
といった経路選択を指示することで、経験の浅い運転者がスリップ事故などを起こす危険を防ぐことができます。
また、センターラインのない堤防道路は、速度を上げる対向車がいる場合は左に寄りすぎて転落する危険があります。晴れた日でも経験の浅い運転者は走行を避けるべきでしょう。
こうした意味で、新人運転者に対する毎日の点呼・朝礼が重要であることがわかります。
なお、どうしても危険な坂の上り下りがあるような経路を走行する必要がある場合は、新入運転者に担当させないように管理者や配車担当者が配慮しましょう。
■疲労への対処、体調管理を徹底
健康起因事故は高齢者の危険と考える管理者が多いかも知れません。しかし、比較的若い運転者でも疲労や疾病の影響で、交通事故を起こすことがよくあります。
業務運転の経験が浅い人は、少しぐらい疲れていても運転を続けるのが業務上の責任だと考えて、無理に運転を続けることがあります。
また、職場のヒエラルキーが低いため先輩には言い出しにくいと気後れしたり、評価が下がることが心配で管理者には申告しにくいと思ってしまうこともあります。
貸切バスの初任運転者がツーマン走行中に居眠運転事故を起こしたケースでは、「もう少し我慢しても大丈夫だろう」と考え、同乗していた先輩に申告しなかったと述べています。
若い運転者がインフルエンザなどの影響を軽視して運転を続けたために、重大事故が発生した事例もあり、注意が必要です。
朝礼・点呼時の運転者に対する健康観察を徹底するとともに、心身の調子が悪いときはすぐに運転を止めて、管理者に連絡することを強く指導することが重要です。
■初めての作業で事故が起こりやすい
労働災害を防ぐための手法の一つとして、過去の災害事例を3Hの観点で分析するという考え方があります。
これは、災害が「初めての作業」「手順を変更した作業」「久しぶりの作業」で起こりやすいことによります。そこで、それぞれの頭文字であるローマ字のHを取って、3つのHが関連する作業における事故防止策を重視して具体化しようということです。
経験の浅い人が運転業務につく場合は、ほとんどが「初めての作業」ですが、なかでも過去に新入運転者が起こした事故のどこに危険要因があったのか、どんな事に慣れていないため事故に至ったのかなど、過去の事例を参照して明確にしておくと、指導が的確にできます。
たとえば、介護サービスなどの運転で初心者がよく起こす事故の一つは、初めて訪問する家庭の玄関近くまでワゴン車を寄せようとし過ぎて、物損事故や脱輪事故を起こすケースです。
ベテラン運転者は初めて行く家であっても「こんな状況の場所では、死角の多いワゴン車がどこかに当たるのではないか」と勘が働くので、無理に車を寄せずに敷地外の安全な場所に停車して、車椅子や簡易ベッドで高齢者を運ぶように考えます。
しかし、新人はついウッカリ家の奥まで車で入ってしまい、家の敷地から出るときにバック事故や建物への接触事故を起こしやすいことが知られています。
荷物の配達などに従事している場合も、経験の浅い者ほど危険な袋小路まで車を入れてしまって、バック事故を起こしやすくなります。そうした業務で事故を未然に防ぐために、事故事例などを例にあげて指導しましょう。
2022年10月13日午後0時前、静岡県小山町の県道で大型観光バスがのり面に乗り上げて横転し、乗客1名が死亡、11名が重傷を負ったほか、16人がけがを負いました。
現場は、富士山5合目と小山町をつなぐ「ふじあざみライン」で、長い下り坂が続くカーブの多い道路です。
バス運転者は「ブレーキが効かなくなった」と供述していて、フットブレーキの多用により「フェード現象」が発生したのではないかと見られています。
26歳のバス運転者は2021年7月に採用され、トラック運転の経験があり、規定の運転講習は社内で受けていたということです。しかし、事故が発生した「あざみライン」を走行するのは初めてでした。
峠道での研修を実施していても、実際に長い坂道で乗客満載のバスを運転した経験はなかったと思われます。このため、適切にエンジンブレーキや排気ブレーキを活用した坂道走行をできなかった可能性があります。
新入社員の安全運転教育といえば、一般には入社時の研修と現場の先輩による指導が主になってきますが、バスや事業用貨物自動車の運転者に対しては、カリキュラムにそった初任運転者指導が、座学と実技教育で義務付けられています。
これらは指導上で専門的なノウハウを求められますが、カリキュラムを見るとどのような点をとくに重視しているかがわかり、参考になります。
たとえば、バス運転者の初任運転者指導で「急な制動装置の操作」などを実技指導するといった項目は、最近の事故事例から導き出されたものです。
新人運転者が運転中に起こす事故の多くは、不適切なブレーキ操作がからんでいることが伺えます。
トラック運転者においては、車高、視野、死角、内輪差、制動距離、積載方法、固縛の方法などを座学だけでなく、実車を使用して指導することが定められています。
初心者の場合は、発進時、右左折時の死角や内輪差等を意識しないために歩行者・自転車をひいてしまう事故が少なくありません。
また、荷物の固縛が不十分なため荷崩れや荷が転落する事故などを防ぐことが極めて重要です。
初任運転者に対する特別な指導の内容・時間(バス)
対象は、
①当該バス事業者でバス運転者として新たに雇い入
れた者
②当該事業者で他の種類の車の運転者として選任さ
れていて、バス運転者として初めて選任される者
「バス運行管理者のための指導・監督ツール」より
初任運転者に対する特別な指導の内容・時間(貨物)
対象は、
①当該貨物自動車運送事業者で運転者として常時選
任するために新たに雇い入れた者
(他の貨物運送事業者で過去3年間に運転者として
常時選任されていた者を除く)
「運行管理者のためのドライバー教育ツールPart4」より
・交通事故の損害の大きさを指導していますか──その1 (危機管理意識を高めよう)
2016年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を契機に、国土交通省ではバス事業所への監査を徹底するなど、再発防止のための法改正を行いました。その中でも、初任運転者に対する教育は重点的に強化されましたが具体的な教育テキストはありませんでした。
本書は、中国バス協会様のご指導のもとに制作したテキストで、事業所における初任運転者教育の方法を具体的に紹介した決定版です。初任運転者教育の内容をイラストや写真を使って、わかりやすく解説しています。
また、指導記録用紙や記入例、実技指導のチェック項目も備えていますので、バス運転者の初任運転者教育を行うにあたって欠かせない1冊となっています。
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