■検知器導入ですぐに飲酒運転防止効果があるとは限らない ■依存症患者や点呼未実施の影響も ■点呼を実効性のあるものにすることが重要 ■コロナ緩和から安易に飲酒運転をする運転者が増加? ■ひき逃げの裏に飲酒運転が隠れている ■こんな事故が起こっています
12月を迎え、忘年会シーズンとなりました。再び新型コロナウイルス感染者が増え始めて、第8波への警戒が高まっていますが、Go To Eat キャンペーンなどが続いているので(*)、今年は忘年会など飲み会の会合を控えないという考えの人が増えているようです。
また、都道府県によって、飲酒運転が増えているという情報もあります。年末年始にかけて、飲酒検問が活発に行われますが、事業所では飲酒運転根絶に向けた取組みを強化しましょう。
管理者は、運転前と運転後の酒気帯び有無の確認をしっかり実施してください。
白ナンバーの事業所(安全運転管理者選任事業所)ではアルコール検知器の使用義務づけについて施行が延期されてはいますが、いつ施行されても対応できるように、なるべく早く検知器を入手して、酒気帯びチェック体制の構築に努めてください。
(*都道府県によっては、プレミアム食事券等の新規発行を一時停止しているところもあります)
■検知器導入後、トラックでは成果が
なかったという研究も
酒気帯び確認に効果を発揮すると期待されているアルコール検知器ですが、過去の検知器導入で「飲酒運転の防止に効果がなかった」という研究もあります。
筑波大学の市川政雄教授(医学医療系)らの研究グループによる「事業用トラック運転者における呼気アルコール検査の義務化の飲酒運転事故への影響」という調査研究で、2022年8月の日本疫学会の学会誌に掲載され、話題を呼んでいます。
アルコール検知器によるチェックは、トラックなど青ナンバーの運転者に対して2011年に導入されました。
市川教授らが、1995年から2020年までに全国で発生したトラック運転者による交通事故のデータを調べたところ、2011年時点で飲酒運転事故の割合は0.19%になっていました。
しかし、その後の10年間ずっと0.2%前後で推移していて、アルコール検知器による酒気帯び確認の減少効果はなかったことが推察できたと結論づけています。
■依存症患者や点呼未実施の影響も
この調査結果は、どのような実態を示しているのでしょうか?
編集部で考えたことの一つは、すでに検知器導入前に道路交通法改正などの影響で飲酒運転事故が大幅に減少し、プロトラックドライバーの殆どは業務中に飲酒運転をすることはなくなり、事故を起こしていたのは、主にアルコール依存症の運転者ではないか?という疑問です。
アルコール依存症患者の数が減らない限り、一定の割合で飲酒運転事故は発生し続けると考えられます。
アルコール依存症の人は、検知器チェックを受けた後であっても業務中に飲酒して運転するからです。
もう一つ考えられる問題点は、飲酒運転事故が起こるような事業所では、もともと運行管理が甘く点呼等がきちんと行われていないため、アルコール検知器等の使用やチェックがおざなりで導入効果が発揮できなかったというものです。
先述の筑波大学の研究でも指摘されていましたが、検知器にコストをかけるより、アルコール・インターロック(※)などの装置導入を検討すべきではないかという提案があります。
今後、自家用自動車の事業所における飲酒運転事故の推移を調査することで、別の結果が明らかになるかも知れませんが、アルコール検知器の使用が義務化された以上、事業所ではこれを最大限に活用して、飲酒運転根絶に向けた取組みを強化する必要があります。
(※アルコール・インターロック=呼気中に⼀定濃度のアルコールを検知するとエンジン始動がロックされる
装置/海外では飲酒事故運転者に設置を義務づけている国がある)
■点呼の徹底で健康起因事故も防止
できる
安全運転管理者選任事業所では、酒気帯びの有無確認が明確に義務化される以前は(2022年4月以前は)、点呼を実質的に行っていなかったところが多いのではないかと考えられます。
しかし、検知器などを使用して酒気帯びの記録を残すことが義務化された以上、点呼は重要な業務となりました。
この変化を前向きにとらえて、点呼を実効性のあるものにすることは、安全運転を確保するために重要なポイントであると考えられます。
というのは、点呼は運転者の健康観察を行う上でも効果的であり、運転者の顔色や呼気の様子、受け応えなどをチェックすることで、酒気帯び以外の異常にも気づく可能性があるからです。
業務形態によっては、スマートフォンを使用した「リモート点呼」で実施することを余儀なくされるでしょう。この場合も、ウェアラブル端末などを活用すれば体温・血圧・心拍数などが計測できますので、スマホ連動のアルコール検知を行うことで意味のあるIT点呼が実施できます。
要は、管理者が運転者と毎日コミュニケーションをとる姿勢を持つことです。その一環としてアルコール検知を行うことを日常化するべきと考えられます。
■飲酒後1時間以内に運転
昨年八街市で悲惨な飲酒運転事故が発生した千葉県では、県の飲酒運転根絶条例が制定されましたが、今年上半期は飲酒運転による事故が57件(前年同時期と比べ7件増)と増加傾向にあります。
同県警察本部が上半期の飲酒運転を分析したところ、飲酒運転で人身事故を起こした運転者の約半数が飲食店で酒を飲み、飲酒後1時間以内に運転していたことがわかりました。
曜日別では土、日曜が半数を占め、時間帯では午後10~11時が9件と目立ち、年代別では50代が18件と最も多くみられました。
検挙された運転者に理由を聞くと「警察に見つからなければ大丈夫だと思った」「運転距離が短いから」などと安易にハンドルを握った人が多いことが伺えます。
同県警では、コロナ禍で厳しかった飲食店などへの制限が緩和された反動もあるとみています。
■「発覚免脱罪」についても指導を
また、ひき逃げ事故では、運転者が飲酒運転の発覚を恐れて逃げるケースが多発しています。
通常の事故は、傷害程度であれば免許取消となることは少ないのですが、飲酒運転では取消し処分の可能性が高いことを多くの運転者が知っています。このほか、公務員など社会的な立場を失うことを恐れて逃げるケースがあります。
しかし、ひき逃げ犯のほとんどが逮捕されていますし、飲酒運転に救護義務違反が加わると重罪となり、免許取消どころか懲役刑を受ける場合があります。
また、飲酒運転で危険運転致死傷罪に問われることを恐れて、家で飲み直すといったケースがあります。これも結局、逮捕後に判明しますので、「発覚免脱罪※」という重い罪に結びつくことになります。
事業所では、飲酒運転やひき逃げ、飲酒を隠す行為などがいかに大きな刑罰に結びつくかを指導しておくことが重要です。
※「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」=12年以下の懲役刑。ひき逃げの罪と併合した場合は、
最高で18年以下の懲役刑となる。
さる11月2日、北海道札幌市白石区の幹線道路で、同乗の女性(23歳)が車の座席から転落し、その後、後続車にひかれて死亡する事故が発生しました。
この事故に関して、車を運転していた男が飲酒運転の発覚を免れるため現場から逃走したなどとして起訴されました。
起訴状では、この運転者(29歳)が、口論の末後部座席にいた女性が転落したにもかかわらず、飲酒運転の発覚を免れるため現場から逃走した罪に問われています。
運転者は、事故の後およそ6時間にわたり自宅で過ごしていたということで、地検はひき逃げの罪に加え、飲酒運転の発覚を免れるために現場から逃げる行為を罰する「発覚免脱罪」でも起訴しました。
■スマートフォンなどを活用
安全運転管理者が行う酒気帯び確認は、警察庁交通局交通企画課の通達によると、
『「目視等で確認」とは、運転者の顔色、呼気の臭い、応答の声の調子等で確認することをいう』
としていますから、対面で運転者をじっくり確認することが求められています。
ただし、直行直帰などの場合を想定して、以下のように電話による確認やIT機器による点呼を認めています。
『酒気帯び確認の方法は対面が原則であるが、直行直帰の場合など対面での確認が困難な場合にはこれに準ずる適宜の方法で実施すればよく、例えば、運転者に携帯型アルコール検知器を携行させるなどした上で、
等の対面による確認と同視できるような方法が含まれる。』
■スマホアプリによる代行サービスも利用が可能
これらの措置に対応して、インターネットで酒気帯び確認をする際に利用するアプリなどが作られており、クラウド利用の運行管理システムと連動したサービスを提供している事業者があります。
また、アルコール検知を運転者がリモートで実施したとき、管理者が不在又は通勤中などで確認が遅れる場合を想定して、クラウド情報を管理する事業者がチェックを代行するサービスなども導入されています。
警察庁の通達では、 安全運転管理者以外の補助者による酒気帯び確認については、業務委託であっても差し支えないとされています。ただし、「運転者が酒気を帯びていることを補助者(委託業者)が確認した場合には、速やかに安全運転管理者の指示を仰ぐことができることとするなど、安全運転を確保するために必要な対応が確実にとられる必要があること」に留意する必要があります。
ネット対応システムを導入すると、対面で確認する場合もアプリが自動記録するので、管理者の業務が効率化できます。 車両台数の多い事業所では、導入を検討してみましょう。
【依存症患者の早期発見が重要】
出発時に酒気帯びの確認を徹底しても、飲酒運転が発生することがあります。
八街市事故の運転者は、仕事中にコンビニでアルコール飲料を購入したり、昼食時に飲酒するのが常態化していたなどの事実が公判で明らかになっており、依存症の傾向が指摘されています。
先述のように、運転者のなかに日中も飲酒を我慢できない「アルコール依存症」患者が隠れていることが、飲酒運転根絶を阻んでいると考えられます。
点呼時の観察やアルコール検知器だけでは防止できない恐れがあることを認識して、依存症対策を考えていきましょう。
アルコールや薬物に対する依存症は病気であり、「意志の力」ではコントロールできなくなっているので、精神科など専門医の治療を受ける必要があります。
しかし、これらの人は、自分が病気にかかっているという自覚がない場合が多く、事故などを起こさないとなかなか発覚しないのです。
事業所では以下のような兆候に目を配り、依存症の疑いがある運転者に対する面談などを実施して、専門病院か精神保健福祉センターなどを受診するよう促しましょう。
● 飲むときは「多量の飲酒をする」人間として知られている(※)
● 酒の席のケンカや酒にまつわるトラブルなどを過去に起こしている
● 肝臓病・糖尿病などの病気で少し長く入院したことがある
● 休日や自宅勤務のとき、朝から酒を飲んでいるという噂がある
● 目つきや顔つきが最近変化していると職場で話題である
● 朝から顔色が悪く、酒の匂いがするという評判である
※飲酒量には個人差があり、長年、多量に飲酒を続けても全く依存症にかからない人がいます。
■アルコール依存症については、以下のWEBサイトも参考になります。
・依存症の理解を深めるための普及啓発事業ページ(厚生労働省)
・アルコール、薬物、ギャンブルなどをやめたくてもやめられないなら(政府広報オンライン)
・生活習慣病とその予防/飲酒(日本生活習慣病予防協会)
・かながわの依存症対策(神奈川県立精神医療センター等)
・特定非営利活動法人ASK(アスク)──依存症問題の予防に取り組むNPO法人
この記事は以下のサイト掲載記事や掲載資料を参照しました。
アルコール依存症が疑われるドライバーへの対処法(安全管理法律相談)
事業所での酒気帯びチェックを徹底しよう (危機管理意識を高めよう)
飲酒運転による事故における会社の責任(安全管理法律相談)
2021年6月に発生した千葉県八街市の児童死傷事故は、白ナンバートラック運転者の飲酒運転が原因でした。この事故を契機に、政府は安全運転管理者選任事業所におけるアルコールチェックの強化を定め、道路交通法施行規則を改正しています。
本書は、安全運転管理者がアルコール検知器などを使用して酒気帯び確認を行う上で押さえておきたいポイントを、イラスト入りでわかりやすく解説しています。
また、アルコール依存症の基礎知識や飲酒運転の罰則などを収録していますので、管理者が飲酒運転根絶に向けた取組みを行う上で欠かせない1冊となっています。
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