さる2022年12月4日、静岡県浜松市の新東名高速道路上り線で、高速乗合バス運転者が運行中に体調不良が生じたにもかかわらず、運行管理者に報告することなくそのまま運行を継続して、前方を走るトラックに追突し、乗客など9名が負傷する事故が発生しました。
国土交通省は、多数の旅客の命を預かる高速乗合バスで運転者の体調不良に起因する事故が発生したことを重視して、バス、タクシー・ハイヤー、トラック、霊柩車など自動車運送事業者に対して、以下のような内容の通知を発して、輸送の安全確保の徹底を呼びかけています。
運転者が体調不良等を生じた場合における適切な運行管理の徹底について
※ → 事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル(国土交通省のWEBサイト)
このほか2022年後半には観光バスや貸切バス、路線バス等で乗客・乗員が死亡したり、重傷を負うなどの重大事故が続発しています。
これは偶然ではなく、コロナ禍あけの旅行需要の急拡大や交通量の増加、バス運転者の人手不足など複合的な要因が影響していると思われます。
バス事業者の運行管理者の皆さんは、事故事例などを参考にして安全指導を徹底してください。
とくに中高年運転者については、年末年始等の繁忙期に連続勤務が続き、疲労が蓄積することに配慮してください。
点呼時の健康観察を徹底するとともに、健康診断結果で要観察・要精密検査などの所見のあった運転者に対しては、産業医の保健指導を受けさせるだけでなく、脳ドッグや心臓2次検査などを受診するように指導しましょう。そして、日常的な健康管理のあり方について継続的に情報交換をするよう努めてください。
また、日頃から運転者に対して「継続的な精密検査は前回、いつ行ったかな?半休をとりたいときは相談してくれ」などと声をかける習慣をつけるとともに、代替運転者を確保する体制をつくって、体調に不安がある運転者が運行管理者に相談しやすい環境づくりをすすめることが重要です。
発生日時 | 事故の概要 |
名古屋高速 横転炎上事故 2022年8月22日 午前10時15分ごろ |
名古屋市内の駅から名古屋空港に向かう高速路線バスが、名古屋高速道路を走行中、出口と本線の分離帯に衝突した後に横転し、バスに追突した乗用車とともに炎上する事故が発生しました。 この事故でバス運転者(55歳)とバス乗客の2名が死亡しました。 事故の原因は調査中ですが、現場にブレーキ痕が残っておらず、事故前に「バスがフラフラと蛇行していた」との目撃情報があり、運転者の体調に何らかの異変が起きていた可能性が指摘されています。 |
修学旅行バス 運転者意識喪失事故 2022年9月28日 午前10時ごろ |
奈良県県斑鳩町で小学校の修学旅行生が乗った貸切バスが反対車線にはみ出して複数台と衝突し、バスの運転者と対向車の乗員など合わせて5人が病院に搬送される事故が発生しました。 事故を起こした運転者(57歳)が運転中に意識を失う様子がバスのドライブレコーダーに残されていて、運転者の健康起因事故と考えられます。 幸い、児童たちにけがはありませんでした。 |
路線バス 運転者意識喪失事故 2022年11月18日 午後8時20分ごろ |
東京都町田市で、路線バスが暴走して住宅に突っこみ、子供を含む乗客の男女7人が病院に搬送される(うち女性1人が重傷)事故が発生しました。 事故を起こした運転者(50歳代)は、「バス停を通過した直後に貧血を起こしたような感じで記憶がなくなり、突っ込んでから意識が戻った」と述べており、健康起因事故と考えられます。 |
体調不良運転者の 高速バス追突事故 2022年12月4日 午前6時ごろ |
浜松市浜北区の新東名高速道路上り線で、高速バスが大型トラックに追突し、乗客等9人が病院に搬送され、1人が重傷を負う事故が発生しました。 バスは福岡県博多市から東京都新宿に向かう長距離路線で、およそ20人が乗車していました。乗務員2人が2時間おきに交代し運転する態勢をとっていましたが、運転者が運行中に体調不良が生じているにもかかわらず、運行管理者に報告することなくそのまま運行を継続し、トラックに追突したもので、健康起因事故と考えられます。 |
*図は、国土交通省WEBサイト 事業用自動車健康起因事故対策協議会 の令和3年度資料より引用しました。
健康起因事故を防ぐ対策として国土交通省では、事業用自動車の運転者に脳の検診を受けてもらうスクリーニング検査のモデル事業を2018年度から実施しています。
同省の事業分析によると、2019年にモデル事業に協力した運転者4,068人のうち、脳検診や精密検査で動脈瘤など「緊急性の高い異常な所見あり」とされた人は27人いました。
事業者が運転者の業務を近距離運行や別業務に変えるなど制限や配慮をしたケースが9件、受診指導や定期的な面談をしているケースが14件ありますが、残る4件について対応していないという結果でした。
「緊急性はないものの異常な所見あり」とされた人は200人いて、このうち53%(107人)は受診から半年以内に精密検査を受けましたが、42%(83人)は検査を受けていません。
また、2018年度から追跡調査をしている人では、「緊急性はないものの異常な所見あり」とされた人97人のうち36%(35人)は、受診からおよそ1年半がすぎても精密検査を受けていませんでした。
同省では、脳ドッグなどの取組みは運転者の意識向上や会社の健康管理の取組み増進につながると評価する一方、診断結果を受けての対応が容易ではなく、従業員の受診管理が難しいなどの問題点があると課題を指摘しています。
※国土交通省:「自動車運送事業者への脳健診普及に向けたモデル事業の結果」より
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本チェックテストは、ドライバーが日頃の健康管理を振り返り、48に質問に「ハイ」「イイエ」で答えていただくことで、安全運転に必要な健康管理がどの程度できているかを簡単に知ることができる自己診断テストです。
具体的な健康管理の弱点を知ることができますので、自身の健康を守り安全運転に活かしていただくことができます。
この小冊子では、ドライバーが健康管理を徹底していなかったために発生したと思われる、6つの重大事故等の事例をマンガで興味深く紹介しています。
事故事例の右ページでは、垰田和史滋賀医科大学准教授(医学博士)の監修のもと、ドライバーとして日々気をつけなければならない健康管理のポイントをわかりやすく解説しています。
ドライバーが健康管理の重要性を自覚することのできる小冊子です。とくに生活習慣病の心配がある方やプロドライバーの皆さんには、ぜひ読んでいただきたい内容となっています。
管理者向けの指導・監督資料については → こちらを参照
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