さる2022年10月13日午後0時前、静岡県小山町の県道で大型観光バスがのり面に乗り上げて横転し、乗客1名が死亡、11名が重傷を負ったほか、16人がけがを負いました。
現場は、富士山5合目と小山町をつなぐ「ふじあざみライン」で、長い下り坂が続くカーブの多い道路です。
バス運転者は「ブレーキが効かなくなった」と供述していて、フットブレーキの多用により「フェード現象」が発生したと見られています。
26歳のバス運転者は2021年7月に採用され、トラック運転の経験があり、坂道のの運転講習は社内で受けていたということです。しかし、事故が発生した「あざみライン」を走行するのは初めてでした。
峠道での研修を実施していても、実際に長い坂道で乗客満載のバスを運転した経験はなかったと思われます。
静岡県警察本部の取り調べに対しても、「普段、道路を走るのと同じ感覚で、フットブレーキを踏みすぎてしまったかも知れない」と供述していて、適切にエンジンブレーキや排気ブレーキを活用した坂道走行をできなかった可能性があります。
ブレーキ関連の指導がポイント
新入社員の安全運転教育といえば、一般には入社時の研修と現場の先輩による指導が主になってきますが、バスや事業用貨物自動車の運転者に対しては、カリキュラムにそった初任運転者指導が、座学と実技教育で義務付けられています。
これらは指導上で専門的なノウハウを求められますが、カリキュラムを見るとどのような点をとくに重視しているかがわかります。
バス運転者の初任運転者指導で「急な制動装置の操作」などを実技指導する項目は、最近の事故事例から導き出されたものです。
新人運転者が運転中に起こす事故の多くは、不適切なブレーキ操作がからんでいることが伺えます。
また、初任運転者は先輩などへの遠慮から、眠気や疲労などを率直に申告したり管理者に相談しにくいという面があり、若くても無理が影響して事故を起こすことがあります。
最近発生した大型バスの事故事例などを紹介して、丁寧に指導してください。
初任運転者に対しては経路の選択も重要
なお、初任運転者を選任して実際の運転業務につかせる場合、経路の選択も重要です。
前述のバス横転事故が発生した「ふじあずみライン」は無料の一般道路ですが、カーブが連続する坂道のため運転が難しく、ベテラン運転者でもフェード現象を起こしやすい危険な場所と言われています、
新人運転者に危険な道を走行させた判断を批判する意見も見られます。
マイカー規制のある「富士スカイライン」、有料で山梨県ルートですが「富士スバルライン」など、より安全なルートを利用する観光バスもあります。
経験の浅い運転者を起用する場合、ルート選択を重視しましょう。
また、貸切バスの場合は運行指示書の経路指示に沿って運行しますが、旅行会社が顧客の要望などから運行当日になって経路の変更を求めることがあります。旅行業界では旅行会社の立場が非常に強いため、運行管理者に報告なく運転者がこれを受け入れてしまう例がみられますので、指示書にない勝手な経路変更に応じないことを厳しく指導しておくことも重要です。
初任運転者に対する特別な指導の内容・時間(バス)
対象は、①当該バス事業者でバス運転者として新たに雇い入れた者
②当該事業者で他の種類の車の運転者として選任されていて、バス運転者として
初めて選任される者
「バス運行管理者のための指導・監督ツール」より
発生日時 | 事故の概要 |
横転炎上事故 2022年8月22日 午前10時15分ごろ |
名古屋市内の駅から名古屋空港に向かう高速路線バスが、名古屋高速道路を走行中、出口と本線の分離帯に衝突した後に横転し、バスに追突した乗用車とともに炎上する事故が発生しました。 この事故でバス運転者(55歳)とバス乗客の2名が死亡しました。 事故の原因は調査中ですが、現場にブレーキ痕が残っておらず、事故前に「バスがフラフラと蛇行していた」との目撃情報があります。 |
高速道路の追突事故 2022年8月26日 午前3時ごろ |
愛知県新城市の新東名高速道路で、長篠設楽原パーキングエリアに入ろうとしていた夜行バスが前方を走る大型トラックに追突する事故が発生しました。この事故でバスの男性運転者(53歳)と同乗していた交替運転者がともに脚の骨を折る重傷を負い、乗客2人が軽傷を負いました。 バス運転者の前方不注視やトラックがパーキングエリア手前道路上で停車しようとした、などの要因が考えられます。 |
運転者意識喪失事故 2022年9月28日 午前10時ごろ |
奈良県県斑鳩町で小学校の修学旅行生が乗った貸切バスが反対車線にはみ出して複数台と衝突し、バスの運転者と対向車の乗員など合わせて5人が病院に搬送される事故が発生しました。 事故を起こした運転者(57歳)が運転中に意識を失う様子がバスのドライブレコーダーに残されていて、運転者の健康起因事故と考えられます。幸い児童たちにけがはありませんでした。 |
観光バス横転事故 2022年10月13日 午前11時50分ごろ |
静岡県小山町の富士山五合目から下る長い坂が続く「ふじあざみライン」道路で、観光バスがブレーキ不能となって法面に乗り上げて横転し、乗客1人が死亡、28人が重軽傷を負う事故が発生しました。 事故を起こした運転者(26歳)は観光バス会社に前年7月に入社した若手で、この道路を走行するのは初めてでした。坂道でフットブレーキを使いすぎてフェード現象を起こしたものと推察されています。 |
運転者意識喪失事故 2022年11月18日 午後8時20分ごろ |
東京都町田市で、路線バスが暴走して住宅に突っこみ、子供を含む乗客の男女7人が病院に搬送される(うち女性1人が重傷)事故が発生しました。 事故を起こした運転者(50歳代)は、「バス停を通過した直後に貧血を起こしたような感じで記憶がなくなり、突っ込んでから意識が戻った」と述べており、健康起因事故と考えられます。 |
高速道路の追突事故 2022年12月4日 午前6時ごろ |
浜松市浜北区の新東名高速道路上り線で、高速バスが大型トラックに追突し、乗客等9人が病院に搬送され、1人が重傷を負う事故が発生しました。 バスは福岡県博多市から東京都新宿に向かう長距離路線で、およそ20人が乗車していました。乗務員2人が2時間おきに交代し運転する態勢をとっていましたが、運転者が運行中に体調不良が生じているにもかかわらず、運行管理者に報告することなくそのまま運行を継続し、トラックに追突したもので、健康起因事故と考えられます。 |
凍結路スリップ事故 2022年12月8日 午前10時15分ごろ |
北海道・道央自動車道の旭川鷹栖インターチェンジ付近で大型バスが本線から降りる分岐帯に衝突し、韓国人観光客の乗客ら計26人のうち、18人が首の痛みなどを訴える事故が発生しました。 事故当時の路面は圧雪アイスバーン状態で、車がスリップして分岐帯に衝突したと推察されます。幸い全員軽傷で救急搬送者はなく、一行は代替バスに乗り換えて観光ツアーを継続しました。 |
路線バス施設衝突事故 2022年12月13日 午後4時35分ごろ |
兵庫県西宮市の阪神西宮駅にある商業施設の建物に、路線バスが突っ込み通行人の女性と施設内にいた女性、バス運転者(59歳)の3人がけがをする事故が発生しました。 バスのドライブレコーダー記録によると、止まる予定の停留所が混んでいたので通り過ぎて駅ロータリーを1周した後、減速しないまま施設に突っ込んでいました。運転者は「旋回時にアクセルとブレーキを踏み間違えた」などと話しています。 |
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2016年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を契機に、国土交通省ではバス事業所への監査を徹底するなど、再発防止のための法改正を行いました。その中でも、初任運転者に対する教育は重点的に強化されましたが、具体的な教育テキストはありませんでした。
本書は、中国バス協会様のご指導のもとに制作したテキストで、事業所における初任運転者教育の方法を具体的に紹介した決定版です。初任運転者教育の内容をイラストや写真を使って、わかりやすく解説しています。
また、指導記録用紙や記入例、実技指導のチェック項目も備えていますので、バス運転者の初任運転者教育を行うにあたって欠かせない1冊となっています。
管理者向けの指導・監督資料については → こちらを参照
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