さる2022年8月、名古屋高速で高速乗合バスが分離帯に衝突して炎上し、乗客と運転者の2名が死亡する事故が発生しました。
また、同年10月には静岡県の県道(ふじあざみライン)で大型観光バスが横転し、乗客1名が死亡、27名が重軽傷を負う痛ましい事故が発生しました。
これらの大事故を受けて、同様の事故を防止するため、国土交通省は「指導・監督の実施マニュアル*」を2023年1月6日に改訂しました。坂道における適切な運転操作、危険箇所情報を踏まえた指導の徹底などをアピールしています。
バスだけでなく、トラック、タクシー向けのマニュアルについても交通モード横断的に改訂しています。
以下は改訂ポイントの概要です。運転者への指導・監督を実施する際の教育資料に付加して、指導を徹底してください。
ブレーキ過熱を防ぐポイント
長い下り坂においては、フットブレーキを使いすぎると、ブレーキライニングの過熱(フェード現象)、ブレーキフールドの沸騰(ベーパーロック現象)、ブレーキエア圧の減少等によりブレーキが効かなくなる可能性があります。
このため、エンジンブレーキや排気ブレーキ等の補助ブレーキを併用するなどの適切な運転操作の必要性があります。
適切なギアの選択
また、エンジンブレーキで十分な制動力を得るためには、適切なギアの選択をすることが必要です。
もし、ギアチェンジなどがうまくできすに、ギア抜け等が発生した場合は直ちにフットブレーキを使用して車両を十分に減速、または停止させた上で再度ギアを入れ直す必要があるなど、バスやトラックの特性によるトラブルとその復帰方法についても併せて指導することが必要です。
↑ 図は国土交通省「指導・監督の実施マニュアル」より引用
経路上の危険情報を共有し確認する
事故情報として各都道府県警察本部が公表している「交通事故発生マップ」や、幹線道路における集中的な交通事故対策の実施を目的に国土交通省と警察庁が指定して「事故危険箇所」を図示した「事故危険箇所検索マップ」などがあります。
これらの地図情報等を活用すれば、交通事故の危険性が高い場所がわかります。
また、GPS機能付きのデジタル運行記録計のデータを活用すれば、ヒヤリ・ハットなどに遭遇した危険地点がわかります。
危険地点の情報を整理して、点呼時などに確認し情報を共有することも大切です。
↑ 図は警視庁ホームページ上の交通事故発生マップより
シートベルト着用の必要性を徹底
乗客の安全を守るために、シートベルト着用の必要性を乗客に理解してもらうことが重要です。
貸切バスや高速バスなど、シートベルトが備えられた座席では乗客のベルト着用が法律で義務づけられています。
「お客様の安全のために、シートベルトの着用をお願いします」と声がけをして着用を促すことが必要です。
とくに貸切バスにおいては、乗客がシートベルトを着用していることを、発車前に運転者または乗務員に目視で確認させましょう。
※(公財)日本バス協会WEBサイトの「走行中はシートベルトを着用してください」も参照。
交通事故発生時などの非常時に備えて、非常口や非常停止ボタンの設置位置、使い方、非常停止時のバスの挙動について、車内のポスターなどによって乗客に案内をしましょう。
とくに貸切バスでは、動画や座席に備え付けられたリーフレットなどを活用して、発車前に乗客に案内するよう運転者に指導しましょう。
運転者が体調不良等で運転できなくなったとき、乗客が気づいてブレーキ操作をしたことによって、事故を未然に防いだ例があります。
非常ブレーキスイッチ(ドライバー異常時対応システム)は、そうした操作を的確に行えるように、先進安全装備として設計されたもので、導入するバス会社が徐々に増えています。
↑ 図は国土交通省・日本バス協会作成によるドライバー異常時対応システムのリーフレットより
発生日時 | 事故の概要 |
横転炎上事故 2022年8月22日 午前10時15分ごろ |
名古屋市内の駅から名古屋空港に向かう高速路線バスが、名古屋高速道路を走行中、出口と本線の分離帯に衝突した後に横転し、バスに追突した乗用車とともに炎上する事故が発生しました。 この事故でバス運転者(55歳)とバス乗客の2名が死亡しました。 事故の原因は調査中ですが、現場にブレーキ痕が残っておらず、事故前に「バスがフラフラと蛇行していた」との目撃情報があります。 |
観光バス横転事故 2022年10月13日 午前11時50分ごろ |
静岡県小山町の富士山五合目から下る長い坂が続く「ふじあざみライン」道路で、観光バスがブレーキ不能となって法面に乗り上げて横転し、乗客1人が死亡、28人が重軽傷を負う事故が発生しました。 事故を起こした運転者(26歳)は観光バス会社に前年7月に入社した若手で、この道路を走行するのは初めてでした。バスに故障はなく、坂道でフットブレーキを使いすぎてフェード現象を起こしたものとみられています。 |
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本書は、トラック運送事業の運行管理者の皆さんに広く活用され、指導・監督の指針12項目に沿った教育が効果的に実施できると好評の「運行管理者のためのドライバー教育ツール」の第5弾です。
PART5では、各項目の管理者用資料がこれまでの1ページから3ページへの増量となり、さらに深く、役立つ情報をお届けすることで、より効果的なドライバー教育を実現することができます。
イラストとキーワードを中心に読みやすく編集していますので、ドライバーミーティングの際や、点呼時などの短時間でもご活用いただけます。
「バス運行管理者のための指導・監督ツール」は、貸切・乗合バスドライバーに対する「指導・監督の指針」に沿った教育が効果的に実施できる資料です。
2018年6月1日に改正された最新の指針に基づき、全13項目に対してそれぞれ、管理者がドライバーミーティングなどを行う際に利用できる「管理者用資料」1枚と、バスドライバーとして踏まえておきたい知識をイラストと3つのキーワードでわかりやすく解説した「運転者用資料」3枚の計52枚で構成しています。
管理者向けの指導・監督資料については → こちらを参照
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