河川敷から登ってきた車両との交通事故

私の事業所には野球チームがあり、週末には河川敷でバッティングや守備の練習をしています。ところが先日、サッカー目的で河川敷を利用していた大学生が練習を終え、帰宅しようと車で河川敷を登ってきたところ、同じ坂を徒歩で登っていた弊社の従業員に衝突してしまいました。河川敷なので道路交通法は適用されないと考えていますが、追突事故という事故形態からして、大学生の過失がかなり大きいと考えられますがいかがでしょうか?

■道路の定義

 道路交通法は、原則として道路において適用される法律ですが、道路の定義としては、同法第2条1項1号に規定されており、<1>道路法第2条1項に規定する道路、<2>道路運送法第2条8項に規定する自動車道、及び<3>一般交通の用に供するその他の場所をいうとされています。

 

 上記のうち、<1>道路法の規定では、一般交通の用に供する道で、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道のこととされており、<2>道路運送法の規定する自動車道は、「専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で道路法による道路以外のもの」とされています。

 

 そして、それ以外の場所であっても、<3>一般交通の用に供するその他の場所として道路交通法上の道路とされます。

 

 そのため、上記<1>や<2>に該当しないような場合でも、また私有地であっても、<3>「一般交通の用に供する」場所であると認められれば、道路交通法上の道路ということになります。

 

 どのような場所が<3>に該当するかについて、裁判例では「不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所として供され、現に不特定多数の人や車両が自由に通行している場所」などとされています。実際には、道などの形状や利用状態、広さ、他の道路や敷地との位置関係、管理状況や人と車の出入りの状況等、具体的な状況をふまえて判断されているといえます。

 

 裁判所の基本的な考え方としては、「当該場所において交通の安全と円滑を図り、通行する自動車の運転者や歩行者の生命、身体に対する危険を防止する必要性が高いといえるかどうか」という観点から、道路交通法上の道路とすべきかどうか判断されていると思われますが、一般的な理解としては、普通に自動車が入られるところは道路交通法上の道路とされるものと考えて良いと思います。

■河川敷の通行と道路交通法の関係

 道路の定義は以上のような内容ですので、河川敷に国道や県道、あるいは自動車道があれば当然道路ですし、これらの道がない河川敷であっても、実際に自動車等が出入りしており、<3>「一般交通の用に供するその他の場所」といえるのであれば、道路交通法上の道路として、同法の適用があることになります。

 

 質問の事例の河川敷は、サッカーや野球をするために車の出入りができるようになっている様子であり、普段から不特定多数の人や車両が通行しているものと考えられます。土地の形状等は分かりませんが、スポーツのグラウンドが確保できるような広さの土地に繋がる道が存在するのであれば、一般交通の用に供するものといえるでしょう。

 

 そのため、道路交通法上の道路といえるため、同法の適用があると考えられます。

■過失割合の考え方

 以上のように、河川敷であっても、道路交通法上の道路ということになれば、同法の適用がありますので、運転者は交通及び車両の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければなりません(同法70条)。

 

 また、事故が生じた場合には、通常の道路と同様に過失割合を検討することになります。

 

 本件では、歩行者の後ろから車が追突したというものですので、歩行者がふらついたり、急に飛び出したりなどの行為がなければ、基本的には歩行者に過失はない状況とされると思われます。


■道路交通法上の道路とはいえない場合

 なお、河川敷が道路交通法上の道路ではないとされる場合であっても、道路交通法違反にならないだけであり、自動車の運転によって歩行者の身体に傷害を与えたのですから、民事上の損害賠償義務は生じます。その場合も、基本的には過失割合は同様に考えられますので、やはり歩行者に過失はないとされることが多いでしょう。

 

 具体的な状況等によりますが、むしろ車が出入りしない状態が通常である道を運転するのであれば、道路を走行する際よりもより注意して運転をしなければならないとされることも考えられます。

■最後に

 以上からすれば、河川敷などでも車が出入りできるような場所であり、また現に歩行者等がいるところを走行する場合には、道路交通法の適用があろうがなかろうが、他人に危害を及ぼさないように注意して運転をしなければならないことは当然といえます。

執筆 清水伸賢弁護士

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