弊社の従業員が出張先でレンタカーを借りたのですが、駐車違反をしてしまいました。その後、従業員は駐車違反金の支払いを忘れており、後日、レンタカー会社から放置違反金を支払った旨の連絡があり、その放置違反金以上の金額(手数料?)を請求されています。もちろん駐車違反をした従業員に非があるのは解りますが、レンタカー会社にも「使用者(自動車の運行を支配し管理するもの)」としての責任があると考えており納得ができないのですが…
駐停車違反について、通常は、警察官や駐車監視員が放置駐車を発見すると、その車に「放置車両確認標章」を貼り付け、その上で、まずは違反者本人に対する責任追及を進めます。そして出頭した違反者に対して青切符で反則通告をし、反則金の納付を求め、違反者が納付すれば手続は終わります。
このように、駐停車違反に対するペナルティーは、本来であれば、その車両を運転していた者に対して与えられるべきものです。
しかし、放置車両が存在しても、誰が乗っていたのかわからない場合、運転者が自ら申告しなければ、違反点数の加算や反則金の支払を求めるなどの責任追及は十分に行えません。
その場合に備え、道路交通法では、放置車両の運転者が分からない場合には、放置違反金という行政制裁金を課すことにしています。
具体的には、道路交通法51条の4第4項において、「前項の規定による報告(筆者注:放置車両の報告)を受けた公安委員会は、当該報告に係る車両を放置車両と認めるときは、当該車両の使用者に対し、放置違反金の納付を命ずることができる。」とされており、車両の「使用者」に課せられることになります。
通常であれば、「使用者」は運転者であるとして処理されますが、運転者が駐車を放置して出頭しなかった場合にどうなるかは、レンタカーの場合に特に問題になります。
レンタカーの場合、駐車違反をしたのは運転していたレンタカーの利用者ですが、利用者が出頭しない場合、レンタカー会社が上記の「使用者」であるとされれば、レンタカー会社が放置違反金を負担しなければならないことになるからです。
岡山地方裁判所令和3年2月16日判決では、まさにこの点、すなわちレンタカー会社が道路交通法51条の4第4項の「使用者」といえるかが争われました。
同裁判例では、同法51条の4第4項の「使用者」について、「放置車両の権原を有し、車両の運行を支配し、管理する者をいう」と解釈し、レンタカー会社は「使用者」であると判断しました。
その理由として、「レンタカー業者は、借受人に対し、運転免許を有しているか等を審査し、予め利用期間や返却場所、運転者等を指定させて、レンタカー契約に基づいて、一定の条件の下で自己の保有する車両を貸し渡すものであるから、当該貸出車両の権原を有し、運行を支配し、管理する者といえる。」としました。
さらに「レンタカー業者は、その使用する車両を借受人に貸し出すことで社会的便益を享受しているのであるから、当該車両が適切に運行されることを管理すべき責任を負っている」として、放置違反金納付命令制度の趣旨、目的を「捕捉困難な放置車両の運転者とは別に、車両の使用による社会的便益の享受や包括的な運行支配を有する立場に着目して、放置車両の使用者に責任を負担させることとした」ものと捉え、レンタカー会社を「使用者」としたものです。
同訴訟のレンタカー会社は、同判決を不服として控訴しましたが、広島高等裁判所岡山支部令和3年7月15日判決は、一審の判断を維持し、レンタカー会社の控訴を棄却しています。
上記の裁判例からすれば、レンタカーが放置されて運転者が出頭しない場合、「使用者」としてレンタカー会社が放置違反金を納付しなければならないということになります。
しかし同結論は、放置違反金納付手続の制度上は、放置違反を行った責任は、まずは運転者にあることは前提であり、本来は運転者が責任を負うが、運転者が不明な場合には使用者が負担するということを言っているだけのものであり、レンタカーを借りて運転していた顧客と、レンタカー会社との間でも当然にレンタカー会社が責任を負うといえるものではありません。
そもそも、通常はレンタカー契約の際に、規約等により、放置違反等を行った場合には、レンタカーを返却する前に出頭して反則金を支払うなどの違反処理を済ませる旨が定められていますし、同負担に対応するために事前にデポジットを取っている事業所もあります。
レンタカー会社と顧客との間では、顧客がレンタカーを放置してレンタカー会社が放置違反金を負担した場合には、レンタカー会社は顧客との間の契約違反による債務不履行責任を追及することができるといえます。
また、万一契約がされていなかったとしても、レンタカー会社から顧客に不法行為による損害賠償請求をすることが可能であると考えられます。
質問においても、放置違反金以上の請求がされているようですが、これは本件においてレンタカー会社が被った損害を請求されているものと思われます。
レンタカー会社に車両の使用者としての責任があることは確かですが、契約違反行為(ないし違法行為)を行ったのは運転者といわざるを得ません。
レンタカー会社が原因で放置せざるをえなかったとか、レンタカー会社のせいで出頭できず、放置違反金を支払うことが出来なかったなどの特殊な事情が無い限り、レンタカー会社の請求を運転者が拒否することは困難であると考えられます。
執筆 清水伸賢弁護士
No.1078 安全管理のトラブルから事業所を守る(A4・16p)
本誌は、事業所の安全管理業務を行うに当たり、様々な法律上のトラブルから身を守るために知っておきたい法律知識を清水伸賢弁護士がわかりやすく解説する小冊子「安全管理の法律問題」の続編です。
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No.1053 安全管理の法律問題(A4・16p)
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