「衝突時に車両が横転した」という交通事故のニュースを聞く機会が、多くなっている印象があります。
交通事故総合分析センターがつくば市周辺の重大事故を調査した結果によると、四輪車事故の約1割が横転していて、意外に多いことがわかります。
さらに、車両相互事故の側面衝突では横転事故が14%、車両単独事故では21%と高い割合を占めています。
また、2010年から2020年の事故データで死亡重傷率を計算したところ、横転ありの事故は29.8%であったのに対して横転なしの事故は23.1%と、死亡・重傷率が高いことが明らかになっています(※1)。
今回は同センターの資料などをもとに「横転」の危険性を考えてみましょう。
※1 イタルダ・インフォメーション No.143,「横転事故例から見る重傷化事故の特徴」
歩道に乗り上げた乗用車が横転し2名死亡
さる2023年5月20日午前11時半ごろ、大阪府八尾市の道路で、歩道に乗り上げた乗用車が横転し、乗っていた70歳台の男女2名が死亡する事故が発生しました。
現場は、片側1車線の道路で、緩やかな右カーブとなっていて、乗用車は歩道に乗り上げたあと、コンクリート製の壁に衝突し、横転したとみられます。
幸い、事故当時は歩道を歩いていた人はいませんでした。操作ミスによる事故と思われますが、乗員が大きな衝撃を受けたようです。
トレーラが横転し、対向車線の運転者が死亡
さる2023年5月19日午後5時前ごろ、茨城県常総市の国道で、大型トレーラーがスリップして横転し、折しも対向車線をやってきた軽乗用車が下敷きとなって大破、乗っていた21歳の女性が死亡しました。
また、軽乗用車の後ろからきた普通自動車もトレーラを避けるためにハンドルを切りましたが衝突し、乗っていた61歳の男性が胸の骨などを折る重傷を負いました。
軽自動車が横転して炎上、家族4名が死亡
さる2023年1月2日、福島県郡山市の信号のない交差点で、優先道路を走行してきた軽乗用車に乗用車が出会い頭衝突し、軽乗用車が横転・炎上して乗っていた一家4人が死亡しました。
交差点付近のセンターラインの白線はほぼ消えかかっており、一時停止の標識などもないことから、優先関係がわかりにくい交差点であったことが判明しています。
カーブを曲がりきれなかった乗用車が横転し、若者3名が死亡
さる2022年11月29日未明、千葉県富津市の交差点で軽乗用車が横転し、車に乗っていた男女3人が死亡、女性1人が意識不明の重体となる事故が起こりました。4人は17歳から18歳で、同学年の高校生を含む若者たちでした。
現場は、左にカーブする片側1車線の国道と市道が交わる信号機のあるT字型の交差点で、車がカーブを曲がり切れずに横転し、信号機の柱やガードレールに衝突したとみられています。
交通事故総合分析センターが、横転事故を2003年に分析した資料では、とくにシートベルト非着用のときに横転事故では横転しない事故よりも重傷・死亡事故率が顕著に高くなることがわかっていました。
同センターでは、さらに2010年から2020年に発生した事故を分析し、近年の車種変化や運転者の高齢化により、横転事故の状況がどのように変化しているのかを調査しました(※2)。
その結果、次のようなことがわかったと結論づけています。
(※2「⾞両横転事故の傾向と特徴〜ミクロデータによる分析」第24回交通事故調査分析研究発表会資料)
図は、交通事故総合分析センター/第24回交通事故調査分析研究発表会資料より
同センターは、横転事故率を分析するために、米国のロールオーバーの評価指標である「SSF」(Static Stability Factor)を導入して、車種別の横転率を評価しています。
SSFは、米国道路安全保険協会が実施する新車アセスメントプログラムの指標から参照したもので、この数値が低いほど横転しやすくなります。
SSFは、左右両輪の距離であるトレッド幅(t)を重心高(h)の2倍で割った数字です。
重心高が大きい車ほど横転しやすく、トレッド幅が大きい車ほど、横転しにくくなります。これにより、車幅が狭く車高が相対的に高い軽ワゴン車などが横転しやすいことが、数値的に明らかになっています。
日本国内では、最近、軽自動車やワゴンタイプの車の普及がすすみ、SSFの数値が⼩さい⾞種が増えていますが、これが横転率増加の⼀つと考えられています(※2)。
さらに、同センターの分析で、軽⾃動⾞は普通⾞より横転⾞両における⾼齢運転者の割合が⾼く、かつ増加していることがわかりました。
2003年のデータでは、⾼齢運転者と横転率の相関関係は弱かったものの、2020年の分析では強い正の相関(R=0.81)が認められています。
このことから、同センターでは時代の変化とともに、⾼齢運転者の⾏動特性などが、車両の横転に何らかの影響を及ぼしている可能性があるとしています。
同センターの高齢運転者事故に関する別の分析(※3)では、高齢運転者は64歳以下の運転者と比べて、相対的に追突事故の割合は少ないものの、出会い頭事故の割合が高い傾向にあるとされています。
出会い頭事故は車両相互事故の中でも横転事故に結びつきやすい形態ですので、これらの点が関係している可能性もあります。
高齢者の出会い頭事故は、信号のない交差点で発生する割合が高くなっていますので、交差点における一時停止、徐行や安全確認の徹底が重要になってきます。
※3 イタルダ・インフォメーション №119 「高齢運転者の出会い頭事故を防ぐには」
実際に、車高の高い軽自動車ハイトワゴンの事故事例をもとに、横転しやすい車の危険性を分析した資料があります(※4)。
新潟県警察本部科学捜査研究所の本宮嘉弘氏が新潟大学大学院法医学分野の医師らと共同で行った研究で、以下のような事故事例を取り上げています。
【事故事例】
住宅街の十字交差点で軽乗用車同士が出会い頭に衝突し、一方の軽ワゴンが横転しました。
横転した車の後部座席に同乗していた児童(シートベルト非装着)の頭部が、割れた窓ガラスから車外に出て車体と路面の間に挟まれ、脳挫滅によって死亡しました。
事故解析の結果、横転した車両の衝突速度は約40km/h、相手車両の速度は約20km/hと推定されています。
【衝突試験】
研究グループが事故事例を模擬して、事故車両と似した軽ハイトワゴンを用いて衝突実験を行った結果、相手車両が軽自動車の側面後部に衝突したとき、非常に横転しやすいことが判明しました。
車は、単に急ハンドルを切って急旋回を行っただけでは、そう横転しないものですが、こうした衝突の場合は、軽ワゴンが始めに相手車両側にロールして、その直後に起き上がり小法師のように揺り戻しが生じて反対側にロールします。さらに、車体後部が振られるヨー回転(スピン)が生じて、横滑り状態となり、ロールが助長されて横転に至るのです。
また、衝突速度を変えてシュミレーション実験をしたところ、相手車両の速度が高いほど軽ハイトワゴンが横転やすいように思われましたが、実際には意外にも相手車両が低速な方が横転しやすいことがわかりました。
【シートベルト非着用の危険】
実験により、自動車が横転した場合には乗員がシートベルトを装着している場合であっても、頭部等を車室内や路面に強打して死傷する可能性が大きいことがわかりました。しかし、シートベルトをしていれば、少なくとも車室外に投げ出されて死傷する可能性が低いことが強調されています。
※4 日本交通科学学会誌 第17巻 第2号 「軽微な事故で横転する軽ハイトワゴンの危険性」
低速でも横転することを自覚
一般的に、横転事故を起こさないために気をつけることとして、交通事故総合分析センターが指摘しているのは以下のようなポイントです。
交差点やカーブにおける速度の抑制は重要です。
ただし、新潟県警が分析した事例のように、出会い頭衝突では車両の速度が遅くても(時速20キロ)、衝突された車が横転するケースがあります。
衝突箇所によって横転しやすいケースがありますので、交差点では低速で通過する場合でも、相手車が停止しない場合の危険を意識しておく必要があります。
横滑り防⽌装置は単独事故で効果的
なお、乗用車セダンなど横転率が減少している車種もあり、横滑り防⽌装置(ESC)の装備が効果を上げているのではないかと見られています(2012年から乗用車の新車に標準装備を義務化し、2018年より軽自動車やトラック・バスにも義務化)。
同センターの2003年の調査では、ESC装備⾞はゼロでしたが、2020年調査ではESC装備⾞の割合は⾮装備⾞の15〜38%に達しています。
事故のミクロ分析から、ESC整備の効果は、⾞両相互事故よりも単独事故の横転防⽌に有効な傾向が認められたということですから、ESCを装備した車両に乗ることで、単独事故の横転防止に役立つと思われます(※3)。
横転時に身を守るカーテンシールドエアバッグ
このほか、新潟県警の本宮氏らは、乗員がシートベルトをしていてもケガを負う事例などを参考に、側面窓のカーテンシールドエアバッグの標準装備を推奨しています。
通常のエアバッグはエアによる圧力の保持時間が0.05秒程度で、このような短時間では衝突時に
エアバッグが展開してから車両が横転するまでの間に乗員を保持する圧力が失われてしまいます。そこで、保持時間がある程度持続する「ロールオーバー対応カーテンシールドエアバッグ」の必要性を強調し、標準装備すべきではないかと提案しています。(※4)
軽自動車のハイトワゴンなどを使用する運転者は、自車が横転しやすいことを自覚して運転上のポイントを守るとともに、被害軽減のために次の点を実践してはいかがでしょう。
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近年、スマートフォンの急速な普及や自転車によるフードデリバリーの需要の広がり、高齢者の増加、急激な気象状況の変化など、交通環境を取り巻く情勢が大きく変化してきています。
ドライバーは、このような複雑化している交通環境を頭に入れてハンドルを握らないと、思わぬ事故を招くことがあります。
本冊子では、ドライバーが把握しておくべき交通情勢の変化や危険性を紹介し、また、実際に該当場面に遭遇した際の事故防止のポイントを解説しており、この一冊で昨今の交通情勢の危険を認識できる構成となっています。