今回は、飲酒した運転者の車が自転車と衝突した事故について、その車に乗っていた同乗者が、運転者の飲酒運転を違法に「ほう助」していたかどうかが争われた事例を紹介します。
飲酒運転をした車への同乗者に対するほう助の認定については(この場合は幇助罪ではなく、損害賠償責任)、飲酒運転を止めるように意思表示をしていた事実などが一つの判断要素となります。
【事故の状況】
平成27年5月11日午前3時46分ごろ、Aは普通貨物車を運転して大阪市内の飲み会に参加した帰りに、駐車場から道路に出たところで走行してきた自転車Bと衝突しました。
この事故で、Bは両側多発頭蓋底骨折に基づく外傷性クモ膜下出血により死亡しました。
Bの家族らは、普通貨物車を運転していたAが飲酒運転をしていたことから、同乗していたCとDに対しても、Aの飲酒運転をほう助したとして損害賠償を求めました。
一方CとDは、事前に飲酒をしたAに代わってA車を運転する約束をしており、実際Aに対して運転しないように注意していたとし、飲酒運転のほう助に当たらないと反論しました。
【裁判所の判断】
民事訴訟の裁判官は、
「CとDは、飲食する前にAから(帰りに)車を運転することを依頼されて承諾しており、実際に飲食店でも飲酒をせず、駐車場に戻るまでAが車を運転することは想定しておらず、駐車場に戻ってからもCは、運転席に座って高さを調節しており運転するつもりであり、後部座席に座ったDも、Cが運転するものと考えていた」
「にもかかわらず、Aは運転しようとしていたCに対して、『車をちょっと前に出すので運転を代わって』と告げ、Cは区画から少し前に出すだけと考え、DもAに運転しないように注意したが、Aは『ちょっとだけやから』と答えたことに加え、Aが酔いが原因で事故を起こすように感じなかったため、それ以上注意をしなかった」
「Aは、Cが高さ調節をした座席を改めて調整せず、少し移動することを前提とした行動をとっていたことからすると、CとDにおいてAの運転を違法にほう助していたとまでは言えない」などとして、CとDの損害賠償責任を認めませんでした。
(大阪地裁 令和2年2月26日判決)
【教訓】
飲酒運転を防ぐため、運転を代わる約束をして運転座席の調整までしていた同乗者に対しては、飲酒運転「ほう助」を認定するとまでは言えないという判決でした。
しかし、悔やまれることは、飲酒をした運転者が「ちょっと前に出すだけだから」などと言ってハンドルを握るのを止められなかった点です。長く運転したわけでなく、駐車場を出るときに自転車と衝突して死亡事故となったのは本当に悲劇ですが、そこにアルコール摂取の恐ろしさがあります。
飲酒した人に対しては、ほんの少しの時間であっても(駐車場構内などでも)、ハンドルを握らせることのないように徹底しましょう。