運転管理業務の責任を再認識しよう

■管理者の指導・監督責任が問われています

運行管理者を送検

 さる7月3日、2022年10月に観光バスが横転し29人が死傷した事故に関して、静岡県警交通指導課は、運転者に対する指導および監督を怠ったとして、業務上過失致死傷の疑いで、運行会社「美杉観光バス」で当時運行管理者だった男性(56歳)を静岡地検沼津支部に書類送検しました(文末に事故概要)。

 

 運行管理者の責任は、道路運送車両法や貨物自動車運送事業法などに明記され、安全運行を確保するための指導・監督や点呼など重要な業務を怠った場合は、行政処分を受けるだけでなく、重大事故では刑法で管理者本人が罰せられることがあります。

 

 一方で、白ナンバーの安全運転管理者の場合は厳しい罰則が管理者に対して科せられているわけではないので、交通事故発生時に運転者の責任は厳しく問われるものの、管理者本人の責任追及はあいまいになりがちです。

 しかし最近は、社会が企業を見る目は厳しくなっており、警察も厳しい捜査を実施するようになっています。

 

 運行管理者だけでなく、安全運転管理者についても管理責任への自覚を高める必要があります。

■「安全運転管理者」が点呼をしていない実態が明らかに

 さる6月18日に、北海道八雲町で畜産業を営む企業のトラックと高速バスの正面衝突事故が発生し5人が死亡しました。

 この事故では、トラック運転者の体調不良が指摘されているとともに、道路交通法で選任が義務づけられている「安全運転管理者」が事故の当日、事務所に出勤しておらず、警察はこの畜産会社の管理の実態についても調べています。

 

 捜査の報道によると、トラックを所有する会社への家宅捜索で押収した運転者の体調管理の記録や通話記録などをもとに、従業員らに運転者の当日の状況などについて任意で事情を聴いているということです。

 

 また、道路交通法施行規則の定めでは「安全運転管理者」が点呼等を行い運転者の体調を確認することになっていますが、同社では酒気帯びの有無や心拍数、血圧、体温など4項目を運転者がセルフチェックして用紙に記入する形式になっていました。

 なお、体調不良のときには電話で連絡する仕組みになっていたということです。

 

 事故当日(日曜日)、会社は休日体制で安全運転管理者は事務所に出勤していませんでしたが、平日も安全運転管理者が対面による点呼をしていなかった実態が明らかになっています。 

 

八雲町正面衝突事故の概要はこちらを参照

■運行管理者の重要業務、「点呼」と「指導・監督」の徹底を

●点呼を確実に実施しないと健康管理もできない

 運行管理者は、自動車運送事業の安全を確保するために設けられている国家資格です。

 運行管理者の主な業務は、運転者への指導・監督、業務前後の点呼による運転者等の疲労・睡眠不足・健康状態等の把握や安全のための指導、乗務割の作成、業務記録の管理、休憩・睡眠施設の保守管理、など非常に多岐にわたっています。

 

 運転者と車両の動向を掌握して常に安全を確保する高度な判断力と、運転者にいつも適切な指示を行う優れた指導力とが求められます。  

 そこで、運行管理者試験に合格して資格者証を取得する必要があるのです。

 

 運行管理者業務はどれも重要度が高いものですが、とくに点呼がきちんと実施されていないと、運行実態の把握があいまいになり、運転者からの情報収集もおろそかになりがちです。

 

 また、健康観察のチャンスを失い、健康起因事故の要因ともなります。

●指導・監督の徹底が事故を未然に防ぐ

 指導・監督の重要性も注目されています。監査等で処分を受けた自動車運送事業者で違反のワースト1位は「指導・監督の違反」という運輸局の統計がよくみられます。

 

 とくに重視されているのは、先述の静岡県小山町で発生したバス横転事故などの再発を防止するため、初任運転者や配置転換した運転者が選任されている場合の指導の重要性です。

 人手不足もあり、経験値の浅い運転者を選任せざるを得ない状況があるのであれば、なおさら指導の重要性が増しています。

 

 なお、一般的な安全運転指導だけでなく、高速道路で緊急時に停止したときの安全な回避措置など、最近の重大事故を踏まえて、指導・監督を実施することが求められています(※)。

 

 また、適性診断などで明らかになった運転者の個別の傾向に即して、指導を工夫することが求められています。たとえば、適性診断で「動作優先傾向がある」と指摘された運転者などに対しては、確認と動作を切り分けて、「安全確認をしっかりしてから運転操作に移る」ことを個別に繰り返し指導するといった姿勢が求められます。

 (※詳しくは、「指導・監督のマニュアルを一部改訂──国土交通省」を参照)

■「安全運転管理者」が果たすべき9つの業務

 安全運転管理者の業務としては、2022年の改正で2項目が付け加えられ、次の9項目が定められています(項目の説明について詳しくはこちらを参照)。

 酒気帯び確認の徹底はもちろんのこと、安全運転管理者も点呼や健康観察などの業務責任を負っていることを再確認してください。

●道路交通法施行規則第9条の10より

(2022年4月1日施行)

 1 運転者の適正等の把握

 2 運行計画の作成

 3 交替運転者の配置 

 4 異常気象時等の措置

 5 点呼、日常点検、運転者の状態把握

 6 酒気帯び有無の確認──

 (目視に加えてアルコール検知器を使用)

 7 酒気帯び確認の記録と保存(1年間)

  と、検知器を常時有効に保持(

 8 運転日誌の備付、記録

 9 安全運転指導

 

※アルコール検知器の使用と検知器の常時有効保

 持に関しては、義務化が延期されていましたが

 2023年12月1日に施行されます。

安全運転管理者の9つの業務

■「安全運転管理者解任命令違反」などの罰則が大幅に強化された

 安全運転管理者が毎日の点呼や酒気帯び確認などの9つの業務を怠っても、運行管理者のように管理者本人に対するペナルティはありませんが、自動車の使用者が果たすべき安全運転確保の義務に関する罰則は厳しくなっています。

 

 さる2022年4月27日、道路交通法の一部が改正され、安全運転管理者等選任義務違反(副管理者の選任義務違反も同様)、安全運転管理者の解任命令違反の罰則が、改正前の「5万円以下の罰金」から「50万円以下の罰金」へと強化されています(2022年10月1日施行)。

 

 また、安全運転管理者が業務を行うための必要な権限や機材が付与されていないため安全運転が確保されていないと認められる場合は、自動車の使用者に対して、是正のための必要な措置命令を出すという規定が新設されました。

 

 この是正措置命令に対して違反した場合についても、50万円以下の罰金が科せられます。 

 「必要な機材付与」が道路交通法に規定された意味は、たとえば使用者がアルコール検知器などを整備していないため安全運転管理者が酒気帯びチェックをできない状態にあり、さらに是正命令にも違反する場合は使用者に罰則が適用されるということです。

【※小山町バス横転事故に関する情報】

 長い坂道でブレーキ操作を誤り横転、1名が死亡、28人が重軽傷

 

●フェード現象を発生させてブレーキ不能となり横転

 2022年10月13日午後11時50分ごろ、静岡県小山町の県道で大型観光バスがのり面に乗り上げて横転し、乗客の女性1名が死亡、11名が重傷を負ったほか、17人がけがを負いました。

 現場は、富士山5合目須走口から小山町をつなぐ通称「ふじあざみライン」で、長い下り坂が続くカーブの多い道路でした。

 バス運転者はバスを出発させて間もなくギアを4速に入れ、下り坂で急カーブに差しかかるたびにフットブレーキを強めに踏み、「フェード現象」を生じさせました。このため「ブレーキが効かなくなった」と供述していて、ハンドブレーキなども試みましたが制動できず、時速約93キロまで加速したバスは出発から24か所目の右カーブを曲がりきれずに横転しました。

 

●前年に採用された運転者は「ふじあざみライン」未経験

 当時26歳のバス運転者(自動車運転処罰法違反=過失致死傷=の罪で公判中)は2021年7月に採用され、過去にトラック運転の経験があり、規定の運転講習は社内で受けていたということです。しかし、事故が発生した「ふじあざみライン」を走行するのは初めてでした。

 会社側の会見では「峠道での研修を実施した」ということでしたが、実際に長い坂道で乗客満載のバスを運転した経験はなかったようです。このため、適切なギア選択とエンジンブレーキや排気ブレーキを活用した坂道走行ができなかったと考えられます。

 

●バスの車体自体には故障なし

 なお、警察が横転したバスの車体を押収して検証した結果、ブレーキの部品にはフットブレーキを踏んだ際の摩擦の熱で生じたとみられる焼けた跡が確認された一方、メーカーが行った調査では、ブレーキなどの性能や作動に異常はなかったということです。  

 

●下り坂の運転方法を具体的に指示しなかった

 静岡県警察本部は、運転者の運転技量の把握が不十分だった上、具体的な運行指示が足りなかったと判断し、当時の運行管理者を業務上過失致死傷で立件することに踏み切りました。

 県警交通指導課によると、送検された男性は会社の統括的立場で運行管理者を務め、運転者の指導・監督も担当していました。管理者は運行前に運転者に対して「上りの道は2~3速のギアで上った方がいい」と伝えたものの、下り方は明確に指導しなかったということです。

 運行指示書にも下り坂での運転操作に関する記載はなかったとみられ、男性は調べに対し容疑を認めています。

 

●特別監査で14項目の違反が判明(関東運輸局)

 事故を起こしたバス運行会社(本社・埼玉県)に対して関東運輸局が実施した特別監査では、14項目の違反が指摘されました(2023年3月)。違反の中に「点呼記録の改ざん・不実記載」「乗務等の記録の改ざん・不実記載」等があったことを国土交通省は重く見ています。

 その後、この事故を踏まえた「貸切バスの安全確保対策の強化」として旅客自動車運送事業運輸規則など関係法令の改正案を公表しました。改正のポイントは、貸切バスに限って点呼の様子を映像(動画)で保存することや点呼記録のデジタル化、運行記録計のデジタル化などで運行管理に関する記録の改ざんを防ぐ意図がみられます。10月までに法令を改正して、2024年4月の施行を目指しています。

■「指導・監督の指針」に対応したトラック運転者への安全教育資料の決定版!

 トラック運送事業の運行管理者の皆さんに広く活用され、指導・監督の指針12項目に沿った教育が効果的に実施できると好評の「運行管理者のためのドライバー教育ツール」の第5弾です。

 

 PART5では、各項目の管理者用資料がこれまでの1ページから3ページへの増量となり、さらに深く、役立つ情報をお届けすることで、より効果的なドライバー教育を実現することができます。

 

 イラストとキーワードを中心に読みやすく編集していますので、ドライバーミーティングの際や、点呼時などの短時間でもご活用いただけます。 

【詳しくはこちら】

■「指導・監督の指針」に対応したバス運転者への安全教育資料の決定版!

 「バス運行管理者のための指導・監督ツール」は、貸切・乗合バスドライバーに対する「指導・監督の指針」に沿った教育が効果的に実施できる資料です。

 

 2018年6月1日に改正された最新の指針に基づき、全13項目に対してそれぞれ、管理者がドライバーミーティングなどを行う際に利用できる「管理者用資料」1枚と、バスドライバーとして踏まえておきたい知識をイラストと3つのキーワードでわかりやすく解説した「運転者用資料」3枚の計52枚で構成しています。

 

【詳しくはこちら】

■初任運転者教育用テキストのご紹介

 2016年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を契機に、国土交通省ではバス事業所への監査を徹底するなど、再発防止のための法改正を行いました。その中でも、初任運転者に対する教育は重点的に強化されましたが具体的な教育テキストはありませんでした。

 

 本書は、中国バス協会様のご指導のもとに制作したテキストで、事業所における初任運転者教育の方法を具体的に紹介した決定版です。初任運転者教育の内容をイラストや写真を使って、わかりやすく解説しています。 

 

 また、指導記録用紙や記入例、実技指導のチェック項目も備えていますので、バス運転者の初任運転者教育を行うにあたって欠かせない1冊となっています。

 【詳しくはこちら】 

■「安全運転管理の9つの業務を解説」改訂新版出来!

 2022年4月に道路交通法施行規則が改正され、安全運転管理者が行うべき業務が7つから9つに増えました。 

 2021年6月の千葉県八街市における白ナンバートラックによる飲酒死傷事故が大きな社会的問題となり、酒気帯び確認が重要な業務として位置づけられています。

 

 本冊子は改訂新版として、9つそれぞれの根拠法令に基いて、やる気のない管理者、やる気のある管理者それぞれの業務に対する姿勢をイラストで比較し、わかりやすく解説しています。管理者がやる気を持って業務に臨むことの重要性を実感していただくことができます。

 

【詳しくはこちら】

■「安全運転管理者のための酒気帯び確認の手引」好評発売中

 安全運転管理者の業務として、運転前・運転後の「酒気帯び有無」の確認とその記録、記録の保存、並びにアルコール検知器を使用したチェックが義務づけられました(検知器チェック義務の施行は2023年12月1日の予定)。 

 2021年6月の千葉県八街市における白ナンバートラックによる飲酒死傷事故が大きな社会的問題となり、飲酒運転根絶に向けた取組みとして位置づけられたのです。

 

 管理者が行うべき運転者の酒気帯び確認方法についてイラスト入りでわかりやすく解説しています(詳細なパワーポイント資料付)。 

 

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