当時26歳のバス運転者(自動車運転処罰法違反=過失致死傷=の罪で公判中)は2021年7月に採用され、過去にトラック運転の経験があり、規定の運転講習は社内で受けていたということです。しかし、事故が発生した「ふじあざみライン」を走行するのは初めてでした。
会社側の会見では「峠道での研修を実施した」ということでしたが、実際に長い坂道で乗客満載のバスを運転した経験はなかったようです。このため、適切なギア選択とエンジンブレーキや排気ブレーキを活用した坂道走行ができなかったと考えられます。
●バスの車体自体には故障なし
なお、警察が横転したバスの車体を押収して検証した結果、ブレーキの部品にはフットブレーキを踏んだ際の摩擦の熱で生じたとみられる焼けた跡が確認された一方、メーカーが行った調査では、ブレーキなどの性能や作動に異常はなかったということです。
●下り坂の運転方法を具体的に指示しなかった
静岡県警察本部は、運転者の運転技量の把握が不十分だった上、具体的な運行指示が足りなかったと判断し、当時の運行管理者を業務上過失致死傷で立件することに踏み切りました。
県警交通指導課によると、送検された男性は会社の統括的立場で運行管理者を務め、運転者の指導・監督も担当していました。管理者は運行前に運転者に対して「上りの道は2~3速のギアで上った方がいい」と伝えたものの、下り方は明確に指導しなかったということです。
運行指示書にも下り坂での運転操作に関する記載はなかったとみられ、男性は調べに対し容疑を認めています。
●特別監査で14項目の違反が判明(関東運輸局)
事故を起こしたバス運行会社(本社・埼玉県)に対して関東運輸局が実施した特別監査では、14項目の違反が指摘されました(2023年3月)。違反の中に「点呼記録の改ざん・不実記載」「乗務等の記録の改ざん・不実記載」等があったことを国土交通省は重く見ています。
その後、この事故を踏まえた「貸切バスの安全確保対策の強化」として旅客自動車運送事業運輸規則など関係法令の改正案を公表しました。改正のポイントは、貸切バスに限って点呼の様子を映像(動画)で保存することや点呼記録のデジタル化、運行記録計のデジタル化などで運行管理に関する記録の改ざんを防ぐ意図がみられます。10月までに法令を改正して、2024年4月の施行を目指しています。