最近、国土交通省は運転者の視野障害による事故の防止について言及することが増えています。
その理由は、職業運転者に限らず運転者の高齢化がすすんでいることから、視野(目の見える範囲)が狭くなったり一部欠けたりする状態の運転者が増えていることが予測されるからです。
運転免許の更新は視力検査で一定の成績を示せば継続できますが、視野検査は行われていませんので、中心視で視力は出るものの視野障害がある運転者は更新時にはわかりません。
また、視野に異常がでる病気は、通常は進行が遅いので、ケガなどで視野に障害が出て自覚のある運転者以外は専門医を受診することも少なく、実態が藪の中という状態です。
しかし、国土交通省が作成した視野障害対策マニュアルによると、自覚のない視野障害による重大事故例も見られることから、管理者は十分に注意する必要があります。
視野障害は仮に片方の眼に欠けた部分があっても、もう片方の眼がその障害を補うことで両眼での視野は維持されるため、症状がかなり進行するまで、本人は自覚しにくいという特徴があります。
また、片眼や両眼で実際には視野障害がかなり進行していても、緑内障や網膜色素変性症のように進行が非常に遅い疾患では、中枢側で欠損部分を補ってしまう補填現象が生じ、障害の自覚を妨げています。
さらに、日常生活では目や顔の向きを常に動かしながら情報を更新しているため、周辺部の視野障害にはなかなか気づきにくいと言われています。
このため、運転者が自分自身の視野障害に気づかずに運転している場合があり、運転中に「突然、車や歩行者が飛び出してきて驚いた」とか「信号機がなくなっていた」などの経験をした場合は視野障害を疑うことが大切です。
そのまま運転を続けると、大事故に結びつく恐れがあります。
●眼底検査・眼圧検査で、ある程度のふるい分けができる
●運転者自身が危険要因に気づく
定期検診での検査が難しい場合は、運転者自身に視野障害の危険因子の有無をセルフチェックしてもらい、眼科医への受診を促すことも有効です。
危険因子は以下のようなポイントです。
□ 強度の近視である
□ 暗いところでは見えづらい
□ 家族に緑内障の人がいる
□ 家族に網膜色素変性症の人がいる
□ 糖尿病と診断された
上記の項目に1つでも該当する場合、
または、
□ 40歳以上である
□ 喫煙している
□ 健診等で高血圧を指摘された
□ 健診等で脂質異常を指摘された
これらの項目に2つ以上該当する場合には、専門健診(眼底検査、眼圧検査等)を勧めましょう。
ちなみに、日本人における視覚障害の原因疾患の調査(注)によると、視覚障害の原因疾患の第1 位は緑内障で28.6%、第2位は網膜色素変性症で14.0%を占めており、いずれも視野が狭くなるなど視野障害をきたす疾患であり、全体の4割以上を占めていることになります。
(※注 2019年の論文=2018年統計)
疾患からくる視野・視覚の異常と関連した加齢による目の機能低下について、最近は「アイフレイル」という言葉が、眼科学会や眼科の専門医の間で使われるようになっています。
「フレイル」とは「加齢に伴い身体の様々な機能が低下することによって、健康障害に陥りやすい状態」を指す概念で、筋肉の減少など基本的な体力の衰えで階段の上り下りがつらくなったり、膝などが悪化し普通に歩けなくなり健康を害する状態を指します。
「アイフレイル」は加齢に伴って眼が衰えてきたうえに、様々な外的ストレスが加わることによって目の機能が低下した状態、また、そのリスクが高い状態を指します。
運転にとって視機能は重要ですので、アイフレイルが進むことは事故の危険が増大します。視野が明らかに欠けていなくても、見えにくいという状態は、運転にとってベストのコンディションではないからです。
アイフレイルを放置すると、緑内障などの重度な障害に陥る場合もあります。
日本眼科学会と眼科医師会等が共同で設立した「日本眼科啓発会議」では、アイフレイル対策活動としてインターネット上に専用の啓発ページを開設し、アイフレイルのチェックリストなどを公開して、セルフチェックを推奨しています。
→ アイフレイルのチェックリストはこちら
→ 目の点検ツールサイトはこちら
セルフチェックして「アイフレイルかも知れない」「視野に問題がある?」などと感じた人には、一度、眼科専門医に相談するように指導しましょう。
また、チェックリストで健康とされた人でも、40歳以上の人は1年に1回、眼科医で目の検査を受けることが大切です。
中高年になると以下のような目の病気の可能性を気にする必要があります。
■白内障
目の中の水晶体というレンズに相当する部分が、加齢によって濁ってきて、透明でなくなった状態を白内障といいます。
目がぼやける、かすむという症状の他、明るいところでまぶしくなり、細かいものが見えなくなったり、物がだぶって見えるなどの症状が出ることがあります。
■緑内障
緑内障は、高い眼圧などによる視神経の障害で徐々に視野が欠けてくる病気です。40歳以上の約20人に1人は緑内障と言われ、珍しい病気ではありません。しかし、初期には症状に気がつくことはほとんどなく進行するまで気づかない人が多いのが特徴です。できるだけ早期に発見し、点眼薬で眼圧を下げるなど進行を遅らせることが大切です。
■加齢黄斑変性症
加齢黄斑変性は、老化に伴い眼の中の網膜黄斑部に出血やむくみをきたし、視力が低下する病気です。 初期には物がゆがんで見えたり、視野の真ん中が黒ずんで見えたりすることが多く、放置すると視力の回復が不能になる厄介な病気です。しかし、片目だけの症状だったり、わずかな障害ではなかなか気づかないことが多いのです。最近では注射によって治療ができるようになりました。
こうした目の老化における問題点を広く理解してもらおうと、日本眼科啓発会議や国際交通安全学会(IATTS)などが、目の疾病の危険をわかりやすく伝える啓発動画の制作に取り組んでいます。
事業所でも、こうした動画を運転者に紹介しておきましょう。
■アイフレイル啓発公式チャンネルの動画より(YouTube/ 提供:参天製薬株式会社)
■国際交通安全学会が制作した動画より(YouTube)
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