最近、飲酒運転が増加傾向にあるという各地の警察本部の発表を見るようになりました。
都道府県にもよりますが、たとえば、福岡県では2023年に入り7月末までに酒気帯び運転などの疑いで295人が逮捕され、昨年(2022年)の同時期に比べて45人増えています。
また、愛媛県内では、7月までの飲酒運転の検挙件数は昨年同時期と比べて7件増えて、118件でした。
警察庁の統計でも今年7月末までの死亡・重傷事故のうち、飲酒運転が原因と考えられる事故は全国で249件で、昨年同時期と比べて39件多くなっています。
ここ数年、全国で飲酒運転は減少傾向が続いていました。今年は新型コロナの行動制限が解除され、飲酒の機会が増えたことが増加の背景にあるとみられています。
多くは飲食店などで飲酒してそのまま車で帰宅するというパターンですが、中には、自宅などで夜中まで多量に飲酒し、翌朝、酒気残りのまま車を運転して事故を起こし逮捕されるようなケースもあります。
事業所での酒気帯びチェックに力を入れるとともに、飲酒運転の危険性を理解させる指導に取り組んでください。
●代行タクシーを待てずに飲酒運転
さる9月13日午前0時ごろ、福岡県久留米市内で56歳の男が軽乗用車を運転していて民家の塀に衝突する事故を起こしました。
警察が運転者の呼気を調べたところ、基準値のおよそ6.4倍のアルコールが検出され、酒気帯び運転の疑いで現行犯逮捕されました。
運転者は「同僚と生ビールを6杯、ハイボールを4杯飲んだ。代行タクシーを呼んだがなかなか来なかったので、大丈夫だろう思って運転した」と供述したということです。
●焼酎を3杯飲んで社有車を運転
さる9月12日午前7時半ごろ、兵庫県尼崎市内の県道で建設会社のワゴン車が自転車に乗っていた男性(62歳)を追い抜く際に左ミラーを接触させて転倒させ、肋骨を折るなど大けがを負わせる事故が発生しました。
ワゴン車の運転者(31歳)からは、基準値を超える1リットル当たり0.55mgのアルコールが検出され、酒気帯び運転で逮捕されました。運転者は、「午前0時ごろにソーダ割りの焼酎を3杯飲んだ」と供述していますので、夜中に飲んだアルコールが抜けないまま、翌朝に社有車を運転していたものと見られています。
飲酒運転をした運転者の事情を調べた資料では、以下のようなケースもみられます。
■マイカー通勤の車を取りに戻る
運転者は、宴会に出るためにマイカー通勤車両を会社近くの駐車場に置いて帰ったものの、「翌日電車とバスで通勤するのは面倒だな」とか、「新車を傷つけられると嫌だな」などの理由で会社の駐車場まで戻ってしまう例です。
このとき、「少し休んでいけば大丈夫か」等と自分勝手な判断をして、飲酒運転の誘惑に負けてしまうケースがあります。
■運転代行を途中で帰してしまう
また、せっかく運転代行を頼んだ運転者が、自宅近くに戻ってきたので安心して、途中のコンビニエンスストアなどで運転代行を帰してしまい、そこで買い物をしてから飲酒運転をするというケースがあります。
あと少しだから大丈夫だろうと甘く考えてのことですが、アルコールが運転操作等に大きな影響を与えているので、近い距離でも飲酒運転事故を起こしてしまいます。
飲酒後しばらくは、自分が酔っている感覚があるものの、人は3時間もたつと「もう酔いは覚めただろう」と自覚する傾向があります。
少し仮眠や休憩をしたり、お茶などを飲んでいると、勘違いは起こりがちです。しかし、これは根拠のない思い込みであり、実際にはアルコールが体内に残っている場合がほとんどです。
下のグラフは、ある飲酒実験の結果を示したものです。14名の人に500mℓの缶ビールを3缶飲んでもらい(アルコール3単位=純アルコール60g)、30分後と3時間後に「酔いの自覚」を答えてもらいました。
すると、14名中11名(78.6%)は、3時間後は30分後のときより酔いが覚めたと感じていると回答しています。
ところが、3時間後のアルコール濃度を計測したところ、すべての人が酒気帯び運転で検挙される基準値(呼気中アルコール濃度が1ℓ中に1.5g以上)を超えていました。
この段階で車を運転すれば、酒気帯び運転となります。
「時間がたっているので大丈夫」など軽い気持ちで飲酒運転をしている
下のグラフは、飲酒運転違反をして取消処分者講習を受講した人に、飲酒運転をした理由を聞いた結果です。「時間がたっているので大丈夫と思った」「目的地が近かった」「飲酒量が少ないと思った」など、軽い気持ちで飲酒運転をしていることがわかります。
このような軽い気持ちの「落とし穴」にはまらないように指導する必要があります。
軽い気持ちで「酒気帯び運転」をした場合、運転者は罰金か、悪くても一定期間の免許停止処分ですむと勘違いしている人がいます。
しかし、呼気中アルコール濃度によっては、即免許を失うことがあり、しかも最低2年は「欠格期間」として免許が再取得できません。過去に処分歴のある運転者は、さらに欠格期間が伸びることになります。
運転が主たる業務の場合では、仕事自体を失うことも少なくないのです。
さらに、飲酒運転摘発の現場で、「正常な運転ができていない」と判断されると、アルコール濃度に関係なく酒酔い運転とされますので、5年以下の懲役または100万円以下の罰金となり、欠格期間は最低でも3年になります。
こうした飲酒運転の代償を運転者にしっかりと理解させておくことも重要です。
なお、飲酒運転で事故を起こした場合、運転者が飲酒の発覚を恐れて「ひき逃げ」をするケースも少なくありません。
飲酒運転をするような運転者はもともと意志が弱く、会社に知れると職を失うといった恐怖から逃げてしまうのでしょう。しかし、結局、ドライブレコーダーや監視カメラの映像から車が割り出され逮捕されることになります。
逃げることにより飲酒の程度はわかりにくくなりますが、逮捕時のアルコール濃度で事故時のアルコール濃度を推測することは可能です。
また、発覚免脱罪(※)が適用されて重罪となることがあります。
飲酒運転をして事故になっても、相手の被害程度によっては罰金ですむ場合があります。
しかし、ひき逃げなどがからむと実刑判決を受ける可能性が高くなります。
※過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪:12年以下の懲役
●軽傷事故だが、飲酒を隠そうと逃げて懲役2年6か月の実刑判決
2023年9月20日、札幌地裁は5月に飲酒運転事故を起こして逃げた運転者(25歳)に、懲役2年6か月の実刑判決を言い渡しました。
この事故は2023年5月4日、北海道札幌市の大通公園近くで、酒を飲んでワゴン車を運転し赤信号を無視して交差点に進入し、乗用車とタクシーに衝突したものです。
相手側の運転者2人に軽傷を負わせ逃走したとして、被告は危険運転致傷罪や発覚免脱罪などに問われていました。
検察側は飲酒運転を隠そうと現場から逃走したのは身勝手で酌量の余地はない、として懲役4年6か月を求刑していました。
裁判所は、
「衝突した車に歩行者が巻き込まれて死傷者が生じ得る危険もあったが、逃走して翌日まで警察に出頭しなかった。交通法規を遵守する態度は微塵もなく、非難の程度は極めて大きい」として、懲役2年6か月の実刑判決を言い渡しました。
一方で「事実を認め、反省の弁を述べていることや雇用主が今後も雇用する意向を示していることを考慮する」として、求刑より2年減刑した理由を述べています。
懲役2年6か月という判決は、交通事故としては過失による死亡事故のケースなどにみられる量刑です。飲酒運転とはいえ被害者は軽傷ですから、逃げずにその場で救護措置などをしていれば、情状酌量の余地があったと思われます。
運転免許の取消処分は免れないとしても、刑事事件として罰金刑や執行猶予などですんだことが十分考えられた交通事故と言えます。
飲酒運転をする運転者は、飲酒運転の悲惨さや飲酒運転違反で検挙されたときの処分の大きさを理解していない場合がありますので、動画などで教育することも効果的です。
DVDで交通安全映画を見たり、以下のような動画サイトで公開されている情報を知ることで、少しでも考えが変わると抑止効果があります。こうした動画を運転者に紹介しておきましょう。
■飲酒運転受刑者の手記動画 【第一話】私の罪 【千葉県警察公式チャンネル】より
■【密着】“八街事故”を受け発足 飲酒運転摘発チーム最前線(YouTube)
■英国の飲酒運転根絶キャンペーン50年・啓発映像(一部衝撃的な映像も入っています)
ホーム > 運転管理のヒント > 危機管理意識を高めよう >飲酒運転が増加傾向にあります!
いわゆる二日酔いや、飲酒後少し仮眠したから大丈夫と思って車を運転し、飲酒運転に陥る事例が後を絶ちません。
小冊子「『酒気残り』による飲酒運転を防ごう」は、川崎医療福祉大学の金光義弘特任教授の監修のもと、酒気残りのアルコールが身体に与える影響や、本人の自覚と実際のアルコール含有量のギャップなどを紹介しています。
「酒気残り」による飲酒運転の危険をわかりやすく理解することができる教育資材です。
安全運転管理者の業務として、毎日、運転前・運転後の「酒気帯び有無」の確認とその記録、記録の保存、並びにアルコール検知器を使用したチェックが義務づけられました。
2021年6月の千葉県八街市における白ナンバートラックによる飲酒死傷事故が大きな社会的問題となり、飲酒運転根絶に向けた取組みとして位置づけられたのです。
本冊子は、運転者の酒気帯び確認をする方法についてイラスト入りでわかりやすく解説しています。
(詳細なパワーポイント解説資料付)
2022年4月に道路交通法施行規則が改正され、安全運転管理者が行うべき業務が7つから9つに増えました。
2021年6月の千葉県八街市における白ナンバートラックによる飲酒死傷事故が大きな社会的問題となり、酒気帯び確認が重要な業務として位置づけられています。
本冊子は改訂新版として、9つそれぞれの根拠法令に基いて、やる気のない管理者、やる気のある管理者それぞれの業務に対する姿勢をイラストで比較し、わかりやすく解説しています。
管理者がやる気を持って業務に臨むことの重要性を実感していただくことができます。
本DVDは、アルコールが運転にどのような影響を与えるか、その危険性を再現ドラマを交え、CG、実験で明らかにしています。
とくに「酒気残り」が運転に与える影響に注目し、体内のアルコール残量とドライバー本人の酔いの感覚とに大きなズレがあることを検証し、注意を促します。
また、飲酒運転の罰則も解説していますので、「飲酒運転は犯罪であり絶対に許さない!」と飲酒運転根絶を強く訴える内容です。
指導:金光義弘(川崎医療福祉大学特任教授)