弊社は近郊の配達を主な事業とする物流会社です。先日、弊社の中型トラックが交差点から発進したところ、左からすり抜けてきた二輪車が貨物に被せるシートを抑えるゴムベルトに引っ掛かり、転倒してしまいました。こちらにもゴムベルトが車外にはみ出していた過失はあると思いますが、相手も1.5mしかない隙間をすり抜けてきているので、それなりの責任は生じると思います。このような事故の場合、どちらに大きな過失が課せられますか?
渋滞が起きている時などに、自動二輪車が普通自動車等の横をすり抜けて走行することがあります。
まず、信号待ちなどで、他の自動車が走行していない場合の同すり抜け行為は、道路交通法上特に制限等はされていないと解されています。
この場合、もちろん自動二輪車自体の車線変更禁止やはみ出し禁止の規制などの適用はありますが、他車に接触したり、停車した他車のドアが開くことが予測されるのにドア横をすり抜けたりするなどの危険な態様でなければ、すり抜け行為自体は問題にならないといえます。
次に、自動二輪車だけではなく、他車も走行しているような場合のすり抜け行為は、車線変更禁止やはみ出し禁止等以外にも、道路交通法等の制限を受けることがあります。
まず、道路交通法2条1項21号で定義される「追越し」は、「車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう」とされていますが、「その進路を変えて」については、自動二輪車の場合は車線変更をした場合をいうと解されます。
そして自動二輪車が車線変更をしない場合は、追越しではなくいわゆる追抜きであり、道路交通法に直接言葉自体が定義されてはいませんが、前方の車両等の側方を通過して前方に出る場合をいうものと解されます。
追越し(ないし追抜き)については、行ってはいけない場合が規定されています。
道路交通法30条には、「車両は、道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。」と定められています。
本条では追越しのための進路変更、又は追抜きを禁止しており、同条3号は追越し等をしてはならない場所の一つとして、「交差点(当該車両が第三十六条第二項に規定する優先道路を通行している場合における当該優先道路にある交差点を除く。)、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に30メートル以内の部分」と定めています。
また、同法38条3項では、「車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に30メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(特定小型原動機付自転車等を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。」として、横断歩道の手前30m以内の道路部分での追越しや追抜きを禁止しています。
また道路交通法32条では、「車両は、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため、停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止し、若しくは徐行している車両等に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない」としており、すり抜けた後に前方に割り込んだり横切ったりする行為(割り込み行為自体)も規制されています。
またご質問では、中型トラックの貨物に被せるシートを抑えるゴムベルトに引っ掛かったとあります。
ゴムベルトが車外にはみ出していた点については、走行している間に一部がほどけたり、そもそも他車に害を及ぼすような危険な態様であったりした場合には、中型トラックにも一定の過失が認められる場合があります。
ただ、自動車の積載物の大きさや積載の方法について規定する、道路交通法施行令第22条では、幅の制限について従前は車両の幅をはみ出すことは許されていませんでしたが、令和4年1月6日に交付され、同年5月13日から施行された改正法施行令では、車両の幅の10分の2までははみ出すことが許容されることになりました(片側は10分の1まで)。
同規制の緩和は、通常の走行であれば同改正程度であれば危険が生じる可能性が低いとして改正されたものです。
そのため、車両幅からいくらかはみ出していたとしても、当該ゴムベルトが、特に問題なく通常の積載物のシートを抑える方法で着けられ、ゴムベルトも含めて同制限の範囲内に留まっているような場合には、直ちに過失とはいえないと思われます。
もちろん、中型トラックに、過度な幅寄せや車線を守らず走行していたこと、あるいは例えば左折するために側方を確認すべき状況だったのに注視していなかったなどで、二輪車と近づきすぎたために引っ掛かったような事情があれば、その点を過失と捉えられることはあります。
しかし、積載物の幅の制限内で、とくに危険な態様ではないような場合には、ゴムベルトが車両の幅よりはみ出していたという事実だけでは過失は認められない可能性が高いと考えられます。
以上の点からすれば、まず自動二輪車は、交差点ないし横断歩道付近で追い抜こうとしていた様子であり、1.5mほどしかない隙間を、積載物のシートを止めるゴムベルトにひっかかるほどの距離で通過しようとして転倒したというものですので、自動二輪車側に過失が認められる可能性は高いと考えられます。
他方、中型トラック側は、ゴムベルトの装着態様やはみ出している幅に問題があれば過失と捉えられる可能性が高くなります。
また、交差点を直進ではなく左折等をしようとしていた場合や、進行方向の車線の幅が変化するような場合には、安全確認をすべきであったにもかかわらず左後方確認や適切な幅寄せ等が不十分であるとして、過失が認められることがあり、その態様によっては過失割合が大きくなると考えられます。
ただし、中型トラックが直進しようとしており、積載物のシート、ゴムベルトの装着態様にも特に問題がないというような場合には、中型トラックの過失に比べ、自動二輪車の方の過失が大きくなると考えられます。
自動二輪車のすり抜け運転に関して、上記の道路交通法の各条で禁止されている追越し行為などは、罰則を伴うものも多いため、厳に慎む必要があります。
また、すり抜け行為は、直接道路交通法に違反しない場合であっても、危険が生じやすい行為であるため、できれば避けるべきであり、行う場合でも十分な注意が必要です。
また、トラックとしては、貨物運送における積載物の積載方法等により危険が生じることがないように注意する必要がありますし、周囲の他車の動きについても警戒するようにしてください。
執筆 清水伸賢弁護士
No.1078 安全管理のトラブルから事業所を守る(A4・16p)
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(2021.12月発刊)
No.1053 安全管理の法律問題(A4・16p)
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