貸切バス事業者向けパンフレットを作成──国交省

■【2024年4月施行】運行記録のデジタル保存・点呼の動画保存などの制度強化

 

 さる2022年10月に静岡県の県道(ふじあざみライン)で発生した大型観光バス横転事故などを踏まえて、同種事故防止のため、国土交通省は貸切バスの安全性向上対策を大幅に強化し、令和5年10月に旅客自動車運送事業運輸規則(昭和31年運輸省令第44号)等の改正等を行いました(本年4月1日施行)。

 

 これに伴い、同省では貸切バス事業者が4月から必要となる対応について、概要をまとめたパンフレットを作成し公表しています。

 

  ○パンフレット(貸切バス事業者のみなさまへ)

 

 なお、昨年10月に改正された旅客自動車運送事業運輸規則と告示・運用通達などの改正点については、同省の情報ページを 参照してください。

 

 国土交通省が公表した改正ポイントは以下のような内容となっています。


  • 点呼記録、業務記録、運行記録計の記録、運行指示書について、保存期間を1年から3年に延長する
  • 点呼記録は必ず電子ファイル(デジタル記録)で保存することを義務化する──紙の点呼記録簿をスキャンしPDFで保存する形式も可(点呼日から1週間以内にPC等に保存)
  • 動画による点呼記録の保存(90日間)を義務化する──動画は点呼の音声を含み、運転者個人を識別できる内容とすること(運転者の後方から撮影しない)
  • 貸切バスの運行記録計をデジタル式運行記録計にする──新車として購入し、2024年4月以降に新規登録を受ける車両(その他の車は令和7年4月1日から必須に)
  • アルコール検知器で検査するとき検知の画像記録を保存する──呼気検査の画像は運転者が識別可能なものを90日間保存する(点呼動画にアルコール検知の映像があれば不要)
  • インターネットの安全取組公表内容に、初任運転者に対して行う「安全運転の実技指導」を追加する──実施日程、経路、車種区分、実技指導の具体的な内容、添乗者の指導歴を掲載 するが、運転者の個人情報等は不要 等

↓国土交通省のパンフレットより


■【解説動画(国交省)】貸切バスの安全性向上のための制度改正を行いました

■デジタル化・動画化で点呼記録、乗務記録の改ざんを防ぐ

点呼記録等の改ざん

 

 富士山麓の横転事故に関するバス運行会社への特別監査では、多くの違反が指摘されました。

 中でも同省が重く見たのは、「点呼記録の改ざん・不実記載」「乗務等の記録の改ざん・不実記載」等があったこと、運転者に対する実技指導が不十分であったこと等です。

 

 捜査や監査の過程でわかったことは、運行管理者は運行前に運転者に対して「上りの道は2~3速のギアで上った方がいい」と伝えたものの、下り方は明確に指導しなかったということで、運行指示書にも下り坂での運転操作に関する記載はありませんでした。

 

 そこで、点呼などの記録を改ざんすることが難しいデジタル化・動画化を導入するとともに、実技指導のインターネットにおける公表などを義務づけたものです。 

 

 貸切バス事業者と運行管理者は、点呼のデジタル化・動画保存、運転実技指導の公表等の措置を4月までに実施しておく必要があります。

 デジタル式運行記録計については、2024年4月に適用される新しい改善基準告示対策として、拘束時間管理のため、すでに導入しているバス事業所は多いと言われていますが、貸切バス事業者については義務であることに注意しましょう。

 

 ※関東運輸局によるバス運行会社への特別監査の結果・処分内容は → こちらを参照(PDF)

横転事故貸切バス事業者の違反項目(関東運輸局/特別監査による行政処分公表資料より)

●違反事実(適用条項)

1 運賃料金変更事前届出違反(道路運送法第9条の2第1項)

2 運送引受書の交付義務違反【記載事項の不備】(旅客自動車運送事業運輸規則第7条の2第1項)

3 乗務時間等告示の遵守違反【各事項の未遵守計6件以上15件以下】(旅客自動車運送事業運輸規則第

  21条第1項)

4 点呼の実施及び記録義務違反【未実施】【記載事項の不備】(旅客自動車運送事業運輸規則第24条)

5 点呼の記録義務違反【記録の改ざん・不実記載】(旅客自動車運送事業運輸規則第24条第5項)

6 乗務等の記録義務違反【記録事項の不備】(旅客自動車運送事業運輸規則第25条第2項)

7 乗務等の記録義務違反【記録の改ざん・不実記載】(旅客自動車運送事業運輸規則第25条第2項)

8 運行指示書の作成等義務違反【記載事項等の不備】(旅客自動車運送事業運輸規則第28条の2第1項)

9 乗務員台帳の作成、備付け義務違反【記載事項等の不備】(旅客自動車運送事業運輸規則第37条第1項)

10 運転者に対する指導監督義務違反【一部不適切(実施1/2以上2/3未満)】(旅客自動車運送事業運輸規

   則第38条第1項)

11 運転者に対する特別な指導義務違反【一部不適切(実施1/2以上)】(旅客自動車運送事業運輸規則第38

  条第2項)

12 適性診断受診義務違反【受診なし1名】(旅客自動車運送事業運輸規則第38条第2項)

13 運行管理者の指導監督義務違反(指導監督不適切(旅客自動車運送事業運輸規則第48条の3)

14 自動車事故報告規則に規定する事故の届出違反【未届出】(道路運送法第29条)

■最近発生した大型バスの死傷事故事例

発生日時 事故の概要

 バス横転炎上事故

 2022年8月22日

 午前10時15分ごろ

 名古屋市内の駅から名古屋空港に向かう高速路線バスが、名古屋高速道路を走行中、出口と本線の分離帯に衝突した後に横転し、バスに追突した乗用車とともに炎上する事故が発生しました。

 この事故でバス運転者(55歳)とバス乗客の2名が死亡しました。

 事故の原因は調査中ですが、現場にブレーキ痕が残っておらず、事故前に「バスがフラフラと蛇行していた」との目撃情報があります。

 観光バス横転事故

 2022年10月13日

 午前11時50分ごろ

 静岡県小山町の富士山五合目から下る長い坂が続く「ふじあざみライン」道路で、大型観光バスがブレーキ不能となって法面に乗り上げて横転し、乗客1人が死亡、28人が重軽傷を負う事故が発生しました。

 事故を起こした運転者(26歳)は観光バス会社に前年7月に入社した若手で、この道路を走行するのは初めてでした。バスに故障はなく、坂道でフットブレーキを使いすぎてフェード現象を起こしました。

 運転者は翌年、過失運転致死傷罪で禁錮2年6か月の実刑判決を受けました(2023年9月26日・静岡地裁沼津支部判決)。

 運行バス会社は三つ星事業者で、運行管理者を務めていた男性(56)も静岡県警に書類送検されています。

 貸切バスへの

 トラック追突事故

 2023年5月16日

 午後8時10分ごろ

  宮城県栗原市の東北自動車道下り線で、外国人留学生40人を乗せた大型バスがエンジントラブルで停車していたところへ、後続の大型トラックが追突、バス後方付近にいた女性運転者(50代)と乗客の男性2人が死亡、トラック運転者(30代)も重傷を負いました。

 この事故に関して東北運輸局は、追突したトラックの運行会社と、貸切バスの停車措置等に問題があったタクシー会社の双方に対して、貨物自動車運送事業法・道路運送法に基づき、車両の使用停止等の行政処分を行いました。

 高速バスとトラックの

 正面衝突事故

 2023年6月18日

 午前11時55分ごろ

 北海道八雲町の国道5号で、家畜の豚を運んでいたトラックが対向車線にはみ出し、札幌から函館に向かっていた都市間高速バスと正面衝突しました。この事故で双方の運転者と乗客3名を含む計5名が死亡したほか12名が重軽傷を負いました。

 事故の原因は調査中ですが、トラック運転者に体調不良の疑いがあります。高速バス側の走行と回避措置に問題はなく、バス運転者は長年安全運転を続けてきた模範ドライバーであったという評価です。

 

 観光バスが横断歩道を

 横断中の小学生をひく

 2024年2月7日

 午後7時ごろ

 

 静岡市駿河区の交差点で、横断歩道を渡ろうとした小学4年生の男の子を左折してきた大型観光バスがはね、男の子は腰の骨を折る重傷を負いました。

 男の子は、スイミングスクールの送迎バスから降りた直後だったということで、事故当時、観光バスに乗客はいませんでした。

 

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