歩行者が事故にあう危険がもっとも高いのは道路の横断時です。
歩行者は信号のない場所では、横断歩道を渡るように指導されていますが、横断歩道で一時停止しない車がいるため、車の通過を待ってから横断する歩行者も少なくありません。
このように、横断歩行者を優先し保護しようという意識が低いため、登下校時に横断歩道を渡っていた小学生などが停止しなかった車にはねられる事故が多発しています。
春の全国交通安全運動の重点では、こどもが安全に通行できる道路交通環境の確保、歩行者優先意識の徹底などが強調されています。
事業所でも、運転者に対して「横断する歩行者の保護」を徹底するよう指導してください。
●通学の小学生3人がはねられる
さる2月20日午後2時30分頃、静岡県焼津市の市道で、下校中に横断歩道を渡っていた小学4年の女児3人が軽乗用車にはねられ、このうち2人が重傷を負いました。
現場の交差点は横断歩道の左右の見通しが悪く、横断歩道の白線も消えかけていました。警察は事故を受けて下校時に緊急の指導や取り締まりを行っています。
警察は、車を運転していた19歳の会社員女性を自動車運転処罰法違反の疑いで現行犯逮捕したとのことです。
●反射材をつけた横断歩行者を轢過
さる2月8日午後5時50分頃、福島県猪苗代町の国道49号で、信号機のない横断歩道を渡っていた13歳の男子中学生が大型トラックにはねられ、骨盤を骨折するなどの重傷を負いました。
当日の福島県内の日没時刻は5時9分で、周囲はかなり暗かったとは思われますが、その後の調べで現場近くには街灯があり、中学生が反射材を着用して横断していたことがわかりました。
●右折時に横断歩行者を轢過
さる2月13日午前10時50分ごろ、広島県大竹市の国道交差点で、横断歩道を渡っていた84歳の女性が、交差点を右折してきたコミュニティーバスにはねられ、死亡しました。
バスは市と交通事業者の共同運行で、乗客にケガはありませんでした。
●左折時に横断歩行者を見落とし
さる2月7日午後7時ごろ、静岡市駿河区の信号機のある交差点で、近くに住む小学4年生の男の子が、横断歩道を横断しようとして左折しようとした大型観光バスにはねられました。
この事故で男の子は腰を打ち重傷を負っています。事故当時、バスに乗客はいませんでした。
ちなみに、令和4年中の死亡事故統計では、道路横断中に死亡した歩行者610人のうち、236人は横断歩道を横断中に被害にあっていて、横断中死者の約4割を占めています。
事業所では、運転者に対して横断歩道通過時のルールをきちんと理解させるように指導しましょう。
信号のない横断歩道の手前で歩行者がいることに気づいたら、一時停止する義務があります(道路交通法第38条)。
横断歩行者がいるかいないか「わからない場合」(いないことが明らかでない場合)は、横断歩道手前で停止できる速度まで減速して近づくことが求められます。
そのまま通過できるのは、歩行者がいないことが明らかな場合のみです。
また、横断歩道手前に停止している車両がある場合は、前方に出る前に一時停止して、安全確認をする必要があります。
このような横断歩道ルールを遵守することで、歩行者の見落としを防ぐことにつながります。
●横断歩行者等妨害等違反
道路交通法では、「車の運転者は、横断歩道を横断または横断しようとする歩行者等のため、横断歩道の直前で一時停止し、かつ、歩行者の横断を妨げないようにしなければならない」と定められています(道路交通法38条第1項)。
この規定に反し、横断歩道を横断または横断しようとする歩行者がいるにもかかわらず、横断歩道の直前で一時停止をしないで歩行者の横断を妨害すると、横断歩行者等妨害等違反となります。これは、自転車横断帯を横断しようとしている自転車に対しても同じです。
横断歩道で止まらない行為はマナーの問題ではなく、明らかなルール違反であることを強調するとともに、「止まる習慣」をつければ苦痛ではないことをアピールしましょう。
(※なお自転車は軽車両ですから、横断歩道を走って渡る自転車に対して車が停止する義務を負っているわけでなく、自転車が自転車横断帯を進行して横断している場合に停止する義務が発生します。ただし、横断歩道で自転車を降りて押して横断している場合は、歩行者とみなされます)
信号のない横断歩道や自転車横断帯の手前には、右の写真のようなダイヤマーク(ひし形の道路標示)があります。
2020年に山梨県警察本部が男女2,600人を対象に実施したアンケート調査によると、この標示の意味を正しく知らない人が6割超に上ったという結果が出ています。運転者の認知度が低いことが問題となっています。
この標示を見たとき、「前方に横断歩道がある」と認識することが重要です。
ダイヤマークは、おおむね横断歩道の50m手前と30m手前の2箇所に描かれています。
道路がカーブした先に横断歩道があって横断歩道自体は見えていなくても、このマークを意識すれば、50m先の横断歩行者をイメージすることができます。そこで、自然とアクセルから足が離れ、減速しながら横断歩道に接近する構えができます。
信号機のない横断歩道を渡る歩行者の手前で、車が一時停止するかどうかの割合を調べた日本自動車連盟=JAFの調査によると(※)、都道府県によって停止率にはかなりの差があり、最も停止率の高い長野県の84.4%に対して、最も低い新潟県は4分の1近い23.3%となっています。
長野県の停止率が高い理由としては、県民の「伝統」となっていて子どものころからの交通安全教育の影響が指摘されています。 歩行者は手を挙げて意思表示し、止まってくれた車へのアイコンタクトなどが奨励され、子どもにとっては、横断歩道で車が止まることが「当たり前」になっているようです。この経験の積み重ねが、運転者になっても生かされています。
なお、全国平均は45.1%で、まだ半数に達していません(2023年調査)。
ただし、全国調査を始めた2016年当時と比べるとかなり改善していて、警察の指導やJAFのキャンペーンなどが一定の効果をあげていることがわかります。
たとえば、2018年の調査時点では停止率が0.9%と、全国で一番低かった栃木県は、『日本一止まってくれる栃木県』を目指して交通安全協会や警察本部が動画による広報活動や横断歩道での取締まりを強化しました。
その結果、2021年は31.0%と向上して全国平均を上回り、2022年には44.9%、2023年には74.8%と、県民の意識が高まって大きな効果が上がっています。
また、交差点右左折時にも横断歩道の歩行者を見落としやすいので、意識することが重要です。
歩車分離信号でない限り、青信号で横断歩道を渡ろうとする歩行者と車が交差する可能性があり、運転者が歩行者を見落とすと、低速度でも死亡重傷事故につながる危険性が高くなります。
このような事故を防ぐため、交差点の横断歩道通過時に、一時停止を義務づけている事業所もあります。
一部の物流事業者や路線バス会社などは、運転者に対して、交差点における横断歩道手前での一時停止と安全確認を指示して、追突を避けるため交差点では加速しないで徐行するように意識づけています。
また、車体後部に「この車は、横断歩道手前で一時停止します。ご注意ください」といったステッカーを貼って、後続車が右左折時に車間距離を詰めてこないように促しています。
このような車体へのスタッカー表示は、運転者本人への意識づけにもなりますので、積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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多発する道路横断中の歩行者や自転車との接触事故。
事故の原因は、運転者が漫然運転をしていて、前方をよく見ていなかったため発見が遅れるケース、あるいは歩行者や自転車が止まるだろうと考えてそのまま進行するケースがほとんどです。
本冊子は、横断歩行者や自転車を見落とさないため、また交通弱者の安全を守るために、どこをチェックするかを詳しく解説し、事業所での事故削減教育に効果的な1冊となっています。
近年、スマートフォンの急速な普及や自転車によるフードデリバリーの需要の広がり、高齢者の増加、急激な気象状況の変化など、交通環境を取り巻く情勢が大きく変化してきています。
ながらスマホの歩行者、ながら自転車(スマホ・イヤホン・傘差し等)は周囲が見えていないので、運転者が注意して近づく必要があります。
また、車道に飛び出す自転車の存在や、電動キックボードなどにも警戒が必要です。
本冊子では、交通環境の変化を踏まえて、データを見ながら、運転者がどのような危険に対処すべきかを解説しています。
本DVDは、交差点事故で11歳の息子を亡くした遺族の活動の紹介や、ドライバ―として交差点を通行する際に、どのような注意を払わなければならないかを、ドライブレコーダーの映像を交えて、詳しく解説します。
歩行者と自転車の交通事故死者数の半数以上が、「交差点とその付近」で発生した交通事故によって死亡しています。
このような状況の中で、ドライバ―はどのようにして交差点における歩行者・自転車事故を防ぐことができるのかを学びます。
多くの事業所で朝礼を実施されていると思いますが、本冊子は交通安全の話題に特化した朝礼話題集です。
テーマを6つに分類しており、1・「交通ルール」、2・「安全運転の知識」、3・「安全運転意識」、4・「高速道路」、5・「駐車・後退時」、6・「トラブル対処法」の計22話を掲載しています。また、各話題には関連したスローガンも掲載していますので、運転者の記憶に残りやすい工夫もされています。
職場の指導的立場にある管理者はもちろん、実際に運転される方が読まれても、安全意識向上にも役立てていただける冊子です。