政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」策の一環として、大型トラック等の高速道路における速度規制を引き上げることを決定しました。
総重量8トン以上の中型トラック・大型トラックについて、高速道路での最高速度が改正前の時速80kmから時速90kmに引き上げられます。
道路交通法施行令の一部を改正する政令が3月1日に公布され、2024年4月1日から施行されました。
最高速度引き上げについては、警察庁の有識者会議で安全性等について検討してきました。
大型トラックは、最高速度を時速90kmに抑えるスピードリミッター装着が義務化されていることや、高速道路での人身事故が減少してきているなどから、引き上げをしても「安全性に大きな影響をもたらすとは考えられない」と結論づけています。
ただし、大型トレーラ等については、現行の時速80kmのままとされています。
写真はイメージです
高速道路では、道路交通法施行令により法定速度(※)が定められ、普通自動車や大型バスは時速100km、車両総重量8トン以上の大型・中型トラック、トレーラーなどは時速80kmとされていました。
速度検討のなかで、大型トラック等に対し時速100kmを求める意見もあったようですが、これらのトラックでは、速度超過による交通事故の被害を軽減するため、時速90kmを上限とする速度抑制装置(スピードリミッター)の装着が義務づけられています。
リミッターの改造・付替などのコスト要因も考えて、90kmになったものと考えられますが、果たしてこのような中途半端な改正で「輸送効率の向上」などについて実効が上がるどうかは疑問だという意見があります。
また、運転者の働き方改革を進めることが改正の趣旨ですが、高速道路の速度アップがプレッシャーとなり、運転者への労働強化に結びつくおそれがないかという懸念もあります。
高速道路では、周期的に渋滞が発生する。
時速10km程度速めて急いでも、渋滞につ
かまれば意味がなく、急いだだけ運転者の
疲労が重なるという考え方もできる。
(※道路標識で速度が指定されていない場合に守るべき最高速度。一部の高速道路で道路標識で速度が指定された区間の場合は、普通自動車は時速120kmまで認められる)
■時速80kmの低燃費走行を守ることも重要
検討会議のなかで、高速道路におけるトラックの実勢速度は、改正前から時速87km程度は出ているというデータが指摘されました。一方で混雑している路線では走行車線の速度実態は時速80kmを下回っていることが多くなります。
時速90kmギリギリまで出せると考えると、追越しへの誘惑が高まるおそれがあります。しかし、車線変更や追越し等の運転行動が増えると事故の危険性が高まります。さらに、加減速の多い不安定な運転が続くと、運転者の疲労が増すという悪影響も考えられます。
エコドライブを実践しているトラック運転者の多くは時速80km走行に慣れていて、安定したリズムを保って運転しています。こうしたトラックにおける安全走行のリズムが崩れると、燃費の悪化だけでなく、事故などが増加してかえって全体の輸送効率は下がる危険もあります。
今後、全体の実勢速度が上がる可能性はありますが、速度にこだわるより、今まで通り安全な車間距離を保つ運転こそ重要です。
■荷主側には、「運転者を急がせないで」とアピールしましょう
なお改正を受けて、運転者が荷主などから「荷物を早く運べるようになったはずだ」などの間違った要請や急ぎ運転の強要を受けるおそれも考えられます。
「10km程度の速度アップの実効は定かではなく、実勢速度87kmで走っていた運転者もいます。わずかな急ぎ運転より、荷待ち時間の削減や積荷受付合理化の方が輸送効率を高める効果が大きい」と荷主にアピールし、「運転者の働き方改革」の趣旨から外れないようにしてください。
労働組合と相談して従来どおり80km/h制限を守ることを決めた会社もあります。運行管理者や安全運転管理者は、すぐに速度アップといった指導をせずに、「安全運行第一」を掲げて、しばらく様子を見ていく姿勢を保ちましょう。
交通に関する法改正や制度改正が行われる時期は、運転者の意識が高まります。事業所で交通事故防止の取組みを展開するチャンスとも言えます。
ただし、漠然と「安全運転をするように」とか「防衛運転をするように」と一方的に指示したり、ポスターを掲示するだけでは運転者の安全運転意識が向上しません。
交通事故を防止するためには、自らが交通事故のリスクの大きさを理解したり、自身の運転の弱点に気づくことが大切です。シンク出版では、一歩進んだ交通事故防止教育教材を取り揃えておりますので、ぜひご活用いただき、交通事故防止にお役立てください。
※オンライン研修、リモート研修には「自己診断型・教材ツール」の活用を!
コロナ禍を経て、交通安全の講習も多数の運転者を一堂に集めて行う形式を控え、リモート講習や小グループの講習が普及してきました。
このため、運転者個々に「自己診断テスト」や「セルフチェックツール」などを送付したり、ネット上で利用させて自己チェックを促し、管理者へはメールによって報告しそれに対して個別指導を行うなどの形態で教育活動を実施している事業所が少なくありません。
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経済活動や観光事業の復調とともに交通量が増加し、交通事故が多発している地域がありますので、ぜひ指導形態を工夫して、安全指導に努めてください。
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