さる2024年7月15日(月)、名古屋市の名古屋大学・野依記念学術交流館において、第33回日本交通医学工学研究会 学術総会が開催されました。
5年ぶりの現地開催となった今回は、「夜間運転と安全」をメインテーマに取り上げ、交通工学の研究者や医学者、交通安全に関わる実務担当者などが参加し、講演に熱心に耳を傾けるとともに、パネルディスカッション等でも活発な意見の交換を行いました。
学術総会として専門性の高い講演会でしたが、特別講演では、長距離運転者をはじめ、シフトワーカーや夜間勤務者等が知っておくべき「仮眠の予防効果」について、非常に参考になる知見や研究成果が報告されました。
以下、今回の学術総会の概要をご紹介します。
日本交通医学工学研究会とは…
日本交通医学工学研究会は平成4年(1992年)に創設された学際的な研究組織です。交通災害の原因としての人的条件(疲労、居眠り、高齢、疾病、飲酒、交通マナーなど)を主として医学の面から、また環境条件(車、道路など)を主として工学の面から検討することにより、人と車が有機的に一体化して、相互補完的にコントロールされるようなシステム作りの達成を志向しています。例年、夏から秋にかけて名古屋市内で学術総会を開催しています。
午前のシンポジウムAは「居眠り運転の原因としてのマイクロスリープ(瞬眠)の検知と予防」と題して、3人の講師が行動科学的および睡眠医学的研究ついて解説しました。
眠気は睡眠をとるしか解消されないとはしながらも、「名前を呼ばれると眠気が覚める」といった興味深い話も聞くことができました。
1 「睡眠不足と眠気」
甲斐田 幸佐(国立研究法人産業技術総合研究所)
2 「生体反応によるマイクロスリープと注意の途切れの検知」
阿部 高志(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構)
3 「マイクロスリープによる居眠り運転事故とその関連行動」
熊谷 元 (広島大学病院睡眠医療センター 副センター長)
塩見 利明 (愛知医科大学名教授 広島大学医学部客員教授)
林 光緒 (広島大学大学院人間社会科学研究科 教授)
特別講演では、あらかじめ短い睡眠をとることで、眠気や作業時の覚醒レベルの低下を予防しようとする「予防的仮眠」について発表が行われました。
15~30分間の短い仮眠は、眠気や疲労の低減、予防のほか、覚醒レベルやパフォーマンスの向上に有効である一方で、起床直後は体にだるさが残るなど覚醒レベルは下がるため、仮眠後はすぐに運転せずに、体操をしたり、顔を洗うなどの注意が必要とのことでした。
なお、運転中に仮眠をとる際には、シートを倒して寝る方が、仮眠の効果が高まるようです。
このほか、高齢者の昼寝には注意が必要であることにも述べられ、30分以内の昼寝をとっている人は、夜間の睡眠も良好であることが分かった一方、昼寝の時間が長くなると、健康リスクが高まるという発表もありました。
午前のシンポジウムBは「夜間の安全走行」と題して、夜間の安全走行に適した車や、夜間運転に必要な視機能のほか、夜間の事故を防止するための道路施設と交通管理についての研究発表が行われました。
最新技術を搭載した車では最大96%の事故低減効果があることのほか、夜間の高速道路でのカーブでは、昼間と比べて2.3倍も事故率が高まるといった危険を知ることができました。
1 「安心・安全な走行のための最新運転支援技術」
池田 幸洋(トヨタ自動車株式会社 先進安全システム開発部)
2 「視機能から見た夜間運転の安全性」
井岡 大河(名古屋大学医学部 眼科)
3 「安全な夜間運転に必要な道路施設と道路交通管制」
亀岡 弘之(中日本高速道路株式会社 技術本部 高度技術推進部)
第33回 日本交通医学工学研究会 学術総会データ
・日時 2024年7月15日(祝)10:00 ~ 17:30
・会場 名古屋大学 野依記念学術交流館
・主催 日本交通医学工学研究会
・会長 塩見 利明(愛知医科大学名誉教授 広島大学医学部客員教授)
・プログラム
<シンポジウムA──居眠り事故の原因としてのマイクロスリープ(瞬眠)の検知と予防>
1 「睡眠不足と眠気」
甲斐田 幸佐 (産業技術総合研究所 )
2 「生体反応によるマイクロスリープと注意の途切れ(attentional lapse)の検知」
阿部 高志 (筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構)
3 「マイクロスリープによる居眠り運転事故とその関連行動」
熊谷 元 (広島大学病院睡眠医療センター 副センター長)
塩見 利明(愛知医科大学名誉教授 広島大学医学部客員教授)
★パネルディスカッションA (司会者及び講演者三名による)
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< 特別講演 >
「予防的仮眠の効果」
林 光緖 (広島大学大学院人間社会科学研究科 教授)
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<シンポジウムB 車間の安全走行>
1 「安心・安全な走行のための最新運転支援技術」
池田 幸洋 (トヨタ自動車株式会社 先進安全システム開発部)
2 「視機能から見た夜間運転の安全性」
井岡 大河 (名古屋大学医学部 眼科)
3 「安全な夜間運転に必要な道路施設と道路交通管理 ~高速道路における夜間交通の状況と安全対策~」
亀岡 弘之 (中日本高速道路株式会社 技術本部高度技術推進部)
★パネルディスカッションB (司会者及び講演者三名による)