従業員が交通事故を隠していてトラブルになっています…

弊社はルートセールスを展開している事業所ですが、先日弊社の従業員が業務運転中に、自転車で飛び出してきた高校生に接触してしまいました。高校生は「大丈夫だから」とその場を立ち去ったそうなのですが、後日弊社に保護者からクレームの電話がありました。こちらとしても、従業員が何も話さないので寝耳に水のような話で驚いたのですが、このような場合に事業所としてはどのような対応を取れば良いのでしょうか?

■交通事故の責任は免れない

 業務において自動車を運転していた従業員が人身事故を起こした場合、被害者に対しては、まず従業員自身が不法行為責任を負います。

 

 また業務上の事故について事業者は運行供用者責任を負い、また従業員の過失によって生じた事故であるため、民法上の使用者責任を負うことになります。

 

 このような事業者の責任は、例え従業員が報告等を行っていなかったとしても当然生じるものであり、知らなかったからといって責任が減免されるものではありません。むしろ、業務上の事故を把握していなかったこと自体を非難される可能性もあります。

■交通事故に対する事業者の対応

◆事業所として採るべき対応

 このような場合、事業者が適切な対応を採らないと、被害者からの請求内容はもちろん、企業としての風評や社会的責任などにも、著しい悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 そのため、事業者としては生じているリスクを軽減するために、必要な対応を採るべきです。そしてこのような場合に考えられる対応の例は、以下の3つです。

  1. 事実調査を行う
  2. 調査結果に基づく対応
  3. 事業所内における共有

 以下、それぞれについて詳しく解説します。

1・事実調査を行う

 まず事業者としては、クレーム内容を確認するべきです。また必要があれば、被害者や保護者と面談等を行って事実を確認することも必要です。

 

 特に、その時は大丈夫と思って立ち去ったが、事後的に傷害が生じているような場合には、謝罪やお見舞い等の対応を採るべきでしょう。

 

 もちろん事実調査は被害者に対するものだけではなく、当然、加害者である従業員に対しても行うべきです。

 

 また、ドライブレコーダーや当日の業務日報等、客観的な証拠も確保した上で事実確認を行います。他の同僚や直接の上司等の第三者からも事情を聴取する必要がある場合もあります。

 

 そのように事実調査を行い、生じた被害の状況や従業員の行動、事故が生じた原因を把握しなければなりません。

2・調査結果に基づく対応

 そのように調査した結果、被害者に損害等が生じていた場合には、速やかにその損害賠償の対応を行います。

 

 実際には保険会社等に対応を任せることが多いと思われますが、その交渉の進捗などは定期的に確認しておくべきです。

 

 また従業員に対しては、事故の原因に応じて安全教育等の指導を行った方が良いと考えられます。

 

 また、今回は相手が大丈夫だと言って立ち去ったというものですが、そもそも軽い接触事故であっても運転者には道路交通法上の報告義務(道交法72条)がありますので、速やかに警察に報告する必要があります。

 

 そのような場合でも自分で判断して報告を怠ることがないよう、具体的に指導等を行うべきです。

 

 さらに、事故の態様等によっては、従業員に対して社内規程に基づく処分や求償を行う必要がある場合も考えられますので、そのような場合は適正に手続等を実施します。

 

 また、業務において自動車を使用するような事業では、些細な事故であっても報告を怠らないような体制が必要です。

 

 この点、報告すると叱責されたり、処分を受けたりするために、従業員が報告しないということもありえます。そのような体制や事業所内の雰囲気等があるのであれば、その点から改善等を行う必要があるでしょう。

3・事業所内における共有

 また、このような事故等の経験については、可能な範囲で事業所内において共有すべきです。

 

 交通事故が生じた原因、注意すべき事項はもちろん、特に本件では、些細なことであると考えて報告をしていなかったという点が問題ですので、全ての従業員に対して周知すべきですし、具体的な対応をマニュアル化したり、具体的なルールを策定したりすることも良いでしょう。

 

 なおこの場合には、必ずしも事実を全てありのまま伝えることが適切ではなく、当該従業員や被害者等のプライバシーを侵害するような場合もあります。

 

 この点、事業所内で共有すべきなのは、再発防止のための体制整備や意識の醸成のためですので、共有するのは同目的に必要な範囲の事実とすべきです。

 

■終わりに

 以上に述べた一つ一つは、ある意味当然行うべきことですが、事業所が被害等を覚知した後は、以上のような対応を速やかに行うことで、事業所に生じる責任や損害を軽減することができると思われます。

 

 特に、従業員から報告がされないような体制が存在するのであれば、至急改善すべきでしょう。

執筆 清水伸賢弁護士

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