最近、レンタカーを運転する外国人観光客をよく目にします。しかしながら万が一、外国人が運転する車と事故を起こした場合、どのような問題が考えられ、事業所としてはどのような対応をしておくべきでしょうか?
日本国内で外国人が運転できる場合には、大きく3つの場合があります。
まず、日本において運転免許を取得している場合です。これには、外国で自分が有していた外国運転免許証を、日本の運転免許証に切替をするという方法と、普通に日本で教習所に通って日本の運転免許を取得する方法があります。
いわゆるジュネーブ交通条約(道路交通に関する条約)締結国の外国人は、同条約に基づく国際免許証の交付を受けていれば、日本国内で運転ができます。国際免許証の場合も、有効期限が切れていたり、所持せずに運転したりすることは許されません。
また、免許の有効期限にかかわらず、日本に上陸してから1年未満であることも要件とされています。
>> ジュネーブ交通条約加盟国はこちら(警視庁WEBサイトへ)
その他に、スイス、ドイツ、フランス、ベルギー、スロベニア、台湾、モナコなど、上記のジュネーブ交通条約には加わっていない外国で、日本とその外国の二国間で、一定の条件で自動車の運転を行うことができる内容の合意をしている場合もあります。この場合運転にあたっては、当該国の運転免許証と、所定の日本語翻訳文を携行する必要があります。
日本国内で、外国人が運転する自動車と交通事故が起きた場合、基本的には、準拠する法は日本法です。交通事故は、法律的には不法行為といえるところ、法の適用に関する通則法の第17条本文は、「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。」としています。
そのため、請求の手続等は、日本法に基づいて行うことになります。ただし、死亡などの予想しうる結果が帰国して生じた場合や、外国人が帰国してから自国で訴訟を提起したような場合には、適用される法自体が争われる可能性はありますし、死亡後の相続については、同法36条で被相続人の本国法によるとされています。
一口に外国人といっても、永住者や就労ビザを持つ人、観光客など様々であり、不法に滞在しているような場合もあります。
永住者や就労ビザを有して働いていて、国内における住所地等が明確な相手の場合はあまり問題がないと思われますが、短期の観光客や不法滞在者などが相手の交通事故の被害者になった場合などは、身元や連絡手段等をきちんと確認しておかないと、請求先が分からず、事実上損害が賠償されないような場合があります。
また、外国人が被害者であった場合にも、日本できちんと協議が出来ず、認められるかどうかはともかく、突然外国から請求されてしまうということも考えられますので、加害者、被害者のいずれの立場であっても、交通事故が生じた場合には、きちんと協議ができるように連絡先等を確認しておく必要があるでしょう。
特に外国人が被害者の場合、損害賠償の金額の計算方法に影響がある場合があります。
この点、実際に生じた治療費や自動車の修理費用等、いわゆる積極損害は損害額の算定に問題が生じることは少ないのですが、渡航費などの問題が発生することがあります。
また、通常の入通院慰謝料についても、特に差異はありません。
検討を要することが多いのは、休業損害や、逸失利益(死亡した場合に平均寿命までに得られた利益や、事故に障がい等のため、労働能力が落ちて将来得られるはずだった利益が得られなくなったという損害)など、いわゆる消極損害といわれるものです。
これらの損害の計算は、本来は被害者が得ていた収入、あるいは平均賃金によって算定するものです。そのため、外国人の母国の賃金水準等が日本と同程度な場合や、日本より高い場合には、通常の日本人相手の事故と同様の計算になることが多く、あまり問題になりません。
永住者や、就労ビザを有して、長期間日本で働いている(あるいは働く予定である)人なども、日本で得ていた収入で算定されます。
しかし、賃金水準等が日本より低い国で、観光など、日本で働いていない外国人が被害者の場合には、基本的に本国で得ていた収入を元に算定されることになり、日本人が被害者である場合と外国人が被害者である場合とで、金額が異なることがあります。
外国人に限らないことではありますが、まずは交通事故を起こさないように安全教育等を充実させるべきです。特に外国人は、日本で運転していても、中には日本の交通ルールの全てを理解していない外国人もいると思われますので、そのような危険があることも従業員に理解させておく必要があります。
また、これも外国人に限りませんが、事故の相手方の身元をしっかり確認するような指導は必要でしょう。
そして、外国人が相手の場合は、残念ながらすぐに帰国してしまったり、身元が分からなくなったりして事実上、損害を回収できなくなるリスクが日本人に比べれば高いといわざるをえません。そのようなリスクに対応できるよう、任意保険には必ず加入しておくべきでしょう。
(執筆 清水伸賢弁護士)